本研究開発は独立行政法人 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点と科学技術振興機構 戦略的創造研究事業 ICORP型研究 ナノ量子導体アレープロジェクトとの共同研究により行われた。研究の成果は、Japanese Journal of Applied Physics 誌のExpress Letterとして12月号(12月25日発行)に掲載されるに先立ち、12月14日にオンライン版で公開された。
研究の背景
金属ナノ薄膜における表面増強赤外吸収(SEIRA)効果は、ミクロな化学結合の情報を高感度にモニターできる現象として、生体分子・高分子などの成分解析や微量検出、あるいは、燃料電池の電極表面での化学種の反応過程のモニターなどに広く応用されつつある。ナノ粒子からなる金属ナノ薄膜や、荒い表面を持つ金属薄膜が、一般的に高いSEIRA活性度を示す。このため、これまで、SEIRA活性なセンサー材料の作製法としては、真空蒸着法により金属膜を半導体基板上に島状成長(Volmer-Weber成長)させる手法が広く使用されてきた。しかし、この製膜法は高額な真空装置を用いねばならず、またそのような真空装置の中ではSEIRA活性度を「その場」で迅速に評価しにくい。このため、増強センサー材料の評価は、製作後に真空装置から取り出し、赤外吸収法により逐一評価せねばならず、センサー材料のSEIRA活性度の効率的な制御が阻まれていた。
研究成果の内容
一般に金属膜のSEIRA活性度は、連続した平滑な膜よりも、孤立した微粒子からなる膜の方が大きくなることが知られている。また、微粒子間の間隙が狭ければ狭いほど増強度が高くなる。従って、理想的には、不連続膜を2次元成長させ、つながった連続膜へと移り変わる寸前の段階で成長を止めて、ナノメーターオーダーの間隙を実現することが望まれる。この様に精密な間隙の制御を行うためには一見、回折、顕微鏡などの構造解析手法が適しているように思われる。しかし、空間分解能が高いメリットはあっても、構造観察・解析作業に手間・時間がかかるため、商用の生産ラインなどにおける間隙の精密制御としての実用的な制御手法には到底なりえない。膜の成長と性能を実時間モニターしながら、寸止めのタイミングを瞬時に決定できる簡便・迅速な手法として、本研究では、固液界面の「その場」モニターに適した全反射法2)を応用した。この「その場成長・モニター」手法を用いることにより、金属シート増強センサー材料を成長させながら特性を迅速・簡便に評価し、再現性良く高感度なセンサー材料を製造することができる。
波及効果と今後の展開
本手法で製造する金属シート増強センサー材料は赤外吸収分光法の他に、同じく電場増強効果を利用する、蛍光分光法やラマン散乱法、光第二次高調波発生法などに用いるセンサー材料にも原理的に応用可能である。従って、この製造法により調製された金属ナノシート材料は、化学センサー、ガスセンサー、バイオセンサー、などさまざまな計測機器の高性能化に広く貢献できるものと考えている。また、製造法の簡素化も重要であり、関連する分析手法の低価格化とその普及にも大きく貢献できるものと考えている。
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【用語解説】
金属ナノ粒子の周りには電場が集中し、その効果により粒子近傍の分子振動の吸収シグナルが数十から数百倍にも増強される場合がある。この効果は表面増強赤外吸収(SEIRA、セイラ)効果と呼ばれ、表面から2-3分子層程度の範囲にある分子からの振動シグナルが特に強く検出される。
試料表面で全反射する光を測定することによって,試料表面の吸収スペクトルを得る方法。本研究では溶液と半導体基板との界面で金属ナノシートを成長させながら、基板の裏側から光を照射した。その反射光の吸収シグナルを実時間モニターして増強度を評価し、成長制御を行った。