初代創発PO研究体制
創発研究者(2022年度採択)
な行
(阿部パネル)
イネの茎をモデルとした新規作物耐水性機構の解明
イネの茎は、タケに見られるような節間と節から構成されています。節間の中央部には髄腔と呼ばれる空洞が形成され、これがシュノーケルのように機能して水面下の組織に酸素を供給するため、イネは水田でも栽培が可能です。しかし髄腔形成の分子メカニズムは明らかになっていません。また、髄腔は節によって物理的に隔てられているため、どのように酸素が節を透過しているのかも未解明です。本研究課題では、イネを耐水性植物のモデル植物と捉え、イネの茎の髄腔形成および節の酸素透過性を分子レベルで解明するとともに、育種的な応用を目指します。
(合田パネル)
脳機能向上を生む全脳アストロサイトカタログ
脳にはニューロンの他にアストロサイトという細胞が豊富に存在します。本研究では、「脳機能が一部のニューロンに局在する」という従来説から脱却し、「脳機能は脳全体のアストロサイト-ニューロンの関わり合いによって発揮される」という新たな説の提唱に挑戦します。網羅的でバイアスのないアストロサイト-ニューロン活動のカタログを作成し、将来的には脳機能の向上や脳疾患の治療・診断におけるイノベーションを目指します。
(天谷パネル)
卵子の「質」構築を理解し、再建へと繋げる次世代卵子学の創出
晩婚化・晩産化が進む先進国では、加齢に伴う女性の妊孕性低下の機序を理解することは社会全体として取り組むべき課題です。胎児期から始まり複合的に成り立つ卵子の「質」構築過程にはブラックボックスが多く存在します。私は、多能性幹細胞を出発点として卵子を試験管内で誘導し、様々な角度から「質」構築過程を検証できる新しい研究基盤を構築し、そして、その応用から卵子機能を再建させる技術の開発を目指します。
(田中パネル)
ニューロンがもつ力学刺激の検知機構に基づく生体力学素子の創出
本研究では、脳発生過程のニューロンがもつ力学刺激の検知機構とエネルギー代謝の関連に着目し、“ニューロンは細胞外環境からの機械刺激に応じて生体内エネルギーをどのように調節するのか”、という問いへの答えを明らかにします。これによって世界に先駆けて“メカノ代謝学”なる新たな学問分野の創生を主導するとともに、生体内の細胞がもつメカノセンシング機構を搭載した生体力学素子の開発を目指します。
(石塚パネル)
転写共役DNA修復の分子機構と老化関連疾患の分子病態解明
遺伝情報を格納しているDNAは放射線や紫外線など様々な環境要因により常に傷ついています。DNAの傷は、遺伝情報を読み出す転写機能を阻害します。細胞機能を維持するためには、転写中のDNAに生じた損傷を速やかに除去する、転写共役DNA修復システムが必須です。本研究では、転写共役修復の分子機能解明と、さらに本機能の破綻により種々の環境因子に高感受性を示す、各種疾患や老化の分子病態の理解を目指しています。
(井村パネル)
シングルナノ機械要素をつくるRugaリソグラフィの開発
微細加工技術の進化は、学術の深化と産業の発展をもたらします。本研究では、圧縮変形下の薄膜が呈する「Rugaパターン」を活用し、利便性と安全性に優れたナノ加工技術「Rugaリソグラフィ」を開発します。特に、Rugaパターンを用いたDNAの誘導自己組織化を基本原理とし、その制御機構を明らかにすることにより、シングルナノメートルオーダーの主要寸法を有した機械要素「シングルナノ機械要素」を創成します。
(伊丹/福島パネル)※研究開始の猶予制度を利用中
力と化学変化のカップリングによるゴム様材料の力学機能創発
ゴム・ゲルなどの柔軟高分子網目材料に対して機械的な力を加えることにより、網目鎖上での力誘起化学反応を引き起こし、材料の力学特性・機能を力によって制御します。材料力学・化学の両視点から高分子網目構造を精緻に設計・制御し、マクロな力・ミクロな化学変化・材料機能変化を高効率にカップリングさせます。力を加えると分解が促進されるゴム材料、力によって機能のON/OFFを制御出来る触媒材料などの創製を目指します。
(合田パネル)
好奇心の神経基盤の解明
好奇心とは、未知なものへの探求心を引き起こし、独自で豊かな発想を生み出します。そのため、好奇心がどのように脳内で作り出されるのか明らかにすることは神経科学分野のみならず、心理学研究や人工知能の開発にも大きな影響を与えることが期待されています。本研究では、マウスに様々な好奇心を従事させる新しい斬新な行動課題を構築し、最先端技術を用いて好奇心の神経機構を神経回路レベルで明らかにすることを目指します。
(伊丹/福島パネル)
周期表横断型の多元素光化学が拓く高度分子変換
本研究では、光エネルギーを利用した高活性種を周期表横断的に設計し、従来法では難しい高度な分子変換法を創出します。周期表における元素の組合せは膨大であるため、それぞれの光化学を理論と実験の両面から解明していくことで、高機能性材料、次世代医薬品、持続可能社会の実現などに資する革新的な光反応を開発します。それにより、「多元素光化学」と呼べる新しい学術領域を形成し、合成化学の変革に挑みます。
(伊丹/福島パネル)
ケイ素およびリン資源循環に向けた新規ライフサイクルの構築
本研究では、ケイ素化学工業およびリン化学工業において再生可能な二次資源として注目されるクロロシラン類およびリン酸を、高付加価値化合物へと変換する、アップサイクル物質変換手法の確立を目指します。開発する物質変換手法を用いては、従来法では合成困難な新しい構造を持つケイ素およびリン原料の合成が可能となり、将来的には、革新的な機能性材料の開発へとつながることも期待されます。
(塩見(美)パネル)※研究開始の猶予制度を利用中
大規模ゲノム解析の新たな価値を拓く情報解析基盤の創出
ゲノム上で転写・複製・修復などのイベントがどう協調的に連携し、統合されているかを体系的に理解することは医学・生命科学において重要な課題です。本研究では、様々なゲノム情報を収集可能な次世代シーケンサを駆使したデータ駆動形解析と数理モデリング・機械学習技術を融合させた「大規模マルチオミクス解析システム」を構築し、複雑なゲノム制御機構を体系的に明らかにするための情報学的基盤を創出します。
(水島パネル)
マトリセルラー蛋白を標的としたがん脆弱性誘導の試み
がん細胞のみでなく、がん組織全体の脆弱性誘導を目指し、細胞外マトリックスのマトリセルラー蛋白(MCP)に注目します。MCPは、その制御機構や役割の多くが未解明ですが、特に病的状態で誘導されることから、診断・治療のバイオマーカーやターゲットとなる可能性があります。がんに誘導されるMCPの全貌(ランドスケープ)を解明、制御することで、がん脆弱性を誘導し、治療効果を増強させることに挑戦します。
(川村パネル)
K3曲面の周期による微分幾何学と整数論の統一的研究
楕円曲線は多くの応用を持つ図形です。例えばフェルマーの最終定理という整数の問題の解決で活躍しました。近年では楕円曲線暗号が現実に応用されています。さて、K3曲面という図形は楕円曲線の高次元版であり、楕円曲線のような豊かな性質が期待できます。本研究ではK3曲面を舞台に、テータ関数という良い性質を持つ関数を介して、微分幾何学と整数論という2つの分野が一体となるような研究成果を得ることを目指します。
(北川パネル)※研究開始の猶予制度を利用中
強相関ファンデルワールス超構造の量子物質科学
薄膜エピタキシー技術を駆使することで、様々な積層配列構造や層間配列構造を有する強相関ファンデルワールス超構造を構築し、単一物質では得られない創発量子物性や従来型デバイスでは得られない革新量子機能の実現を目指します。また、試料の大面積性を活かして多角的な構造・物性評価を行い、創発量子物性の微視的な起源を明らかにすることで、強相関ファンデルワールス超構造を対象とする量子物質科学の学理構築を目指します。
(天谷パネル)
バイオ腱骨組織創出のための細胞周囲環境の役割の解明
腱、靭帯は全身の様々な部位に存在し、骨と連結し、動物が運動を可能とするための重要な組織です。しかし腱や腱骨接合は一旦傷害を受けると自己治癒能に乏しく、既存の治療法では受傷前の状態に組織が回復することはありません。本研究では、幹細胞の周囲環境による分化制御メカニズムを理解すること、3Dバイオプリンターなど技術革新を利用して、バイオ腱骨組織の創出を目指します。
(八木パネル)
理論と社会的実験で築く知能と文化の進化動力学
情報学と物理学の手法を融合する研究方法で、人の高度な創作を支える知能と文化の発展原理の解明に取り組みます。複雑な文化的産物に関する知識が社会的な相互作用の中で生まれて発展する過程を表す数学モデルに基づく進化動力学の構築と、文化発展の過程を観測・分析するための社会的実験の研究を行います。音楽、文学、視覚芸術などの創作文化の発展の理解や予測、効率化に役立つ科学を目指します。
(田中パネル)
巨核球成熟不均一性を解消させる培養法の確立
血小板製剤は、献血者の減少から安定した供給の確保は困難になりつつあります。そこでiPS細胞由来血小板を製造する一連の技術開発を行い、その中で乱流刺激が前駆細胞の巨核球株から血小板産生を促進させることを発見しました。しかし、依然、一部の巨核球のみが大量に血小板をつくる成熟の不均一性が観察されます。そこで私は巨核球の不均一性を解消して、人工血小板製剤が産業化レベルで製造できる方法の実現を目指します。
(井村パネル)
超低軌道長期周回衛星による持続的宇宙利用の実現
近年、宇宙空間における廃衛星やその部品等、宇宙ゴミの増加が問題となっています。高度100 kmから200 kmの超低軌道を周る人工衛星は推進機無しでは大気抵抗により直ちに落下して燃え尽きるため宇宙ゴミになる心配がない一方、長時間に渡る軌道維持は困難です。本研究では半永久的な軌道維持を可能とするこれまでにない推進機構を持つ大気吸い込み式電気推進機の実現により、持続的な宇宙利用環境の創出を目指します。
(水島パネル)
うつ病のセロトニン仮説の創造的破壊
うつ病をはじめとする精神疾患は全世界で大きな社会問題となっています。精神疾患治療薬の大部分が作用するセロトニン神経は、従来抗うつ効果を担うと考えられてきましたが、最近私たちの研究チームは正反対の機能を持つセロトニン神経が脳内に存在することを見出しました。本研究では、このセロトニン神経の多様性に着目することで、従来の治療薬の限界を打破することを目指します。
(天谷パネル)
次世代光技術を用いた革新的脳腫瘍制御法の創発
アップコンバージョン(UC)は新しい光技術で、ナノ粒子により近赤外光を可視光に変換することができます。頭の外側から脳組織透過性の近赤外光をあて、脳深部で変換された可視光を発生させることで脳深部にある悪性脳腫瘍を繰り返し、かつ低侵襲に治療する、革新的な光治療デバイスを開発します。光の最適化、光の多機能化に取り組むとともに、血管内からのデバイス導入などから更なる低侵襲化にも取り組みます。
(天谷パネル)
成体幹細胞の神経堤形質を増強した歯胚再生技術の開発
「歯胚再生」研究の重要な課題は、細胞源です。これまで成体に由来する細胞のみから安定的に歯胚構造を構築する技術は確立されていません。そこで、本研究は歯の発生源となる2つの歯原性上皮と歯原性間葉細胞をそれぞれ誘導多能性幹細胞(iPSCs)由来上皮系細胞と間葉系幹細胞(MSCs)由来の神経堤幹細胞様細胞塊を応用することで、胎児期に存在する歯の元となる細胞に代わって、成体の細胞のみを用いて歯胚構造を再生することを目的とし、新たな歯の治療技術の礎を構築することを目指します。
(伊丹/福島パネル)
三次元芳香族クラスターを活用した高性能触媒の開発と応用
医薬品研究からマテリアルサイエンス分野に至るまで、現代の有機化学関連分野は多様な拡がりを見せており、その原動力となるのが有機分子の構造多様性です。本研究では「三次元芳香族クラスター」を活用した新たな分子設計戦略を提案し、従来法を凌駕するような高効率&高選択的な合成手法の確立を目指します。化学産業の省資源化&省エネルギー化資源を実現することで、持続可能な発展に貢献することが期待できます。
(田中パネル)
インスタント臓器の作成
室温で保存できいつでも復水(水で戻すこと)により使用可能なインスタント臓器の開発を目指します。まず、加圧凍結や極低温乾燥というこれまで用いられたことのない手法を用い、細胞や組織の凍結乾燥・復水技術の開発を試みます。さらに、3Dプリント技術と統合することで、復水して移植可能な大型インスタント臓器を開発します。本研究による技術的革新により、細胞保存、創薬、再生医療の分野の飛躍的進展が期待されます。
(石塚パネル)
多様な生物の行動生態解明に向けた同位体ロギング法の確立
環境変動や環境改変が深刻化するなかで、持続可能な環境利用・保全のためには生物の生息する環境の情報を知り、環境変動が生物に及ぼす影響を評価することが重要です。生物硬組織の安定同位体比は生息環境や生物の代謝活動を記録し、追跡の難しかった生物の環境・生態情報が解読できます。本研究では、萌芽的な同位体比分析技術の開発を行い、多様な生物の硬組織から環境や生態の履歴を復元する「同位体ロギング法」を提案します。
(井村パネル)
安定相制御による超低消費電力変換素子に関する研究
現代の電気社会において、電力ロスの小さなパワーデバイスの重要性は非常に高くなっています。本研究では超省エネ社会に向けて、従来の材料が持たない新機能を安定相制御によって付与させることを検討して、「究極の低電力ロスを実現する新原理とそれを達成する新材料によるパワーデバイス」に関する研究を行います。この研究によって現在のパワーデバイスの研究に大きな風穴を開け、新しい学術分野の確立を目的としています。
(井村パネル)
ナノシステム制御による太陽光利用の技術革新
太陽光利用における抜本的な技術革新は、持続可能な社会の実現に向けて不可欠です。もし、スペクトル帯域の広い太陽光を、扱い易い単色光へと変換することができれば、その利便性は高まります。本研究では、カーボンナノチューブなどのナノ物質を用いて、熱発生が少ないエネルギー変換システムの学理を開拓し、「高温非平衡熱放射」という現象を巨視的に発現させることで、高効率な太陽光スペクトル変換の実現を目指します。
(水島パネル)
血液脳関門という新たな診断、治療ターゲットの確立
神経疾患では脳の恒常性を維持する血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)の異常が病気の発症や進行と関与します。ただし臨床を反映したモデルがないため、詳細は分かっていません。本研究では、独自に開発した「患者iPS細胞からBBB構成細胞を作製する技術」を用いてこの問題を克服し、患者BBBに着目して神経疾患の病態解明を行うことで、BBBを標的とした革新的な診断技術と創薬に挑戦します。
(水島パネル)※研究開始の猶予制度を利用中
革新的なオンデマンド脂質プローブ作成技術の確立
これまでに開発した新しい脂質プローブスクリーニング系を改良するとともに、脂質プローブに特化した合成ライブラリーを作製します。これらの革新的な技術を使って、様々な脂質分子種や膜脂質組成に対する脂質プローブを圧倒的なスピード&高効率で作製します。最終的には、開発した新規脂質プローブを用いて新たな生命現象の発見に繋げつつ、脂質プローブの配列情報も公開することで、世界へのインパクトを最大化します。
(合田パネル)
社会脳ネットワークの動作原理の解明に向けた心理・生理・解剖学的研究
本研究では、マカクザルをモデル動物として、本質的に社会的な動物であるヒトを理解するうえで必要不可欠な社会的認知機能、特に自己と他者の行動情報処理に関わる神経基盤の解明、さらにその機能不全により顕在化する行動異常の解析による、精神・神経疾患のメカニズム理解を目指します。心理・生理・解剖学的アプローチを駆使し、理学や医学のみならず、人文科学などを含む幅広い科学分野に資する脳科学的知見の提供に繋げます。
(合田パネル)
眠りやすさを制御する新しい感覚システムの解明
私たちの眠りやすさは、概日リズムや日中の活動によって変化することが知られています。しかし、それが細胞レベルでどのように調節されているのかはよく分かっていません。私は眠りやすさの変化したモデルマウスを確立・解析することで、眠りやすさを調節する神経細胞を同定することに成功しました。本研究を通じて、この細胞がどのように眠気のもとを感知・変換し、誘眠につなげるのかを明らかにし、新しい感覚システムとして眠気を再定義します。
(塩見(美)パネル)
遺伝子発現を制御するゲノム折り畳み構造のクライオ電子顕微鏡解析
長鎖DNAを介した遺伝子制御を高解像度で理解するために、エンハンサー・プロモーター間に形成されるDNAループ構造を試験管内で再現して、クライオ電子顕微鏡観察を行います。本研究を実現するために、新しい電子顕微鏡観察スキームや核に見立てた人工細胞上にDNAループを裏打ちする技術も開発します。本研究は、クロマチン高次構造変化がもたらす細胞分裂の異常や癌化に関しても、新たな知見を与えることが期待されます。
(合田パネル)※研究開始の猶予制度を利用中
層構造海馬から生み出される脳波の生成機構・役割の解明
海馬や大脳皮質の層構造の起源は約3億2000万年前の羊膜類が誕生したときであると考えられています。鳥類は進化の過程で層構造を失ってしまったので、現在地球上で層構造が見られるのは哺乳類と爬虫類のみです。本研究ではトカゲの海馬を調べ、哺乳類と比較することで、「層構造がなければ成し得ない脳機能」を明らかにします。