アゴラ2015 開幕・閉幕・キーノートセッション 開催報告

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  • キーノートセッション5<国際光年セッション>
    「ひかり」を通してみる 宇宙・時・わたしたちの歩みと未来

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English

開催概要/Session Information

  • 日時:2015年11月15日(日)12:50~16:00
  • 会場:東京国際交流館 3F 国際交流会議場
  • 企画提供:科学技術振興機構

詳細

   

登壇者

  • 荒川泰彦 東京大学教授・ICO会長
  • 臼田知史 国立天文台教授
  • 香取秀俊 東京大学教授
  • 村松亮太郎 アーティスト・(株)ネイキッド代表
  • 伊賀健一 東京工業大学名誉教授・前学長

レポート

「ひかり」を通して見る歩みと未来

 2015年は国連が定めた「国際光年」です。アゴラキーノートセッション5では、光に関する重要な研究をしてきた研究者や、光を用いたアートを作るアーティストらが登壇し、多様な視点から光の世界を紹介しました。
     

●節目の年、光研究の歴史を振り返る

 セッションの初めにJST副理事の渡辺美代子氏があいさつ。東日本大震災をきっかけに、日本でも、科学者だけでなく国民も一緒に科学の未来を考え、作っていく必要があるという認識が生まれたことに触れたうえ、このセッションでは「研究科学の話だけでなく、光がどう世の中に役立っているか、アートや音楽まで、幅広い講演がある」と紹介しました。


  •   画像:講演者
  • 国際光年特別セッション/ 開催挨拶

 最初の講演者である東京大学教授の荒川泰彦氏は、国際光学委員会(ICO)会長であり、33年前に量子ドットとそのレーザー応用を提案するとともに、量子ドットレーザーの実用化に貢献してきた研究者です。今回は「光の時代〜国際光年によせて〜」と題し、国際光年と光に関する研究の歴史について話しました。


 
  •   画像:講演者
  • 国際光年特別セッション/ Part1
    • 荒川泰彦 東京大学教授・ICO会長

 「国際年」とは、国際連合が特定の事情に対して重点的問題解決を全世界の団体・個人に呼びかけるための期間のことで、2015年は光および光技術の国際年と定められています。2015年が国際光年に制定されたのは、「光にかかわる重要な研究成果が、今年から遡って節目となる年に出ているからだ」と荒川氏は解説しました。
 まず、今からちょうど1000年前に、「近代光学の父」と呼ばれるイブン・アル=ハイサムが、幾何光学の三法則(直進、反射、屈折)など、現代の幾何光学の基本的な考え方に言及した『Kitab al-Manazir』(光学の書または視覚の書)を書きました。また、フレネルレンズの発明者でもあるオーギュスタン・ジャン・フレネルが光は横波であることを発見したのが200年前、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論が100年前、そしてビッグバンの兆候である宇宙マイクロ波背景放射が発見され、光ファイバーが作られたのが50年前ということです。
 講演ではさらに、光に関わるノーベル賞の歴史や、荒川氏の専門であるレーザーの技術が57年前からどのように進歩したかについても触れました。


●感度を増した望遠鏡で宇宙を探る

 光学・赤外線天文学が専門の国立天文台教授 臼田知史氏は、「宇宙からの光〜すばる望遠鏡と超大型望遠鏡TMT〜」と題して、「ひかり」で宇宙を探る技術について語りました。宇宙の研究においては、「技術革新があって、新しいものが見えるようになる、それが宇宙像を変える、そしてさらなる技術革新が必要になる、というサイクルが重要だ」との見方を示しました。


  •   画像:講演者
  • 国際光年特別セッション/ Part2
    • 臼田知史 国立天文台教授

 近年は望遠鏡が大型化。1999年に作られたすばる望遠鏡は8.2mの単一鏡を持っていますが、2024年完成予定のTMTには30mのセグメント鏡が搭載されます。これは、144cmの鏡を492枚敷き詰めるもので、すばる望遠鏡に比べて、13倍の集光力、4倍の解像力を持ちます。
 すばる望遠鏡では、新たにHyper Suprime-Cam(HSC)という9億画素のデジタルカメラが完成しました。これは、アンドロメダ銀河の全体を写せる上に、その中の星を一つ一つ分解して観測することができます。また、波面補償光学(Adaptive Optics: AO)という、大気擾乱をリアルタイムに補正する技術も進んでおり、これによって、「地上望遠鏡でも宇宙望遠鏡を凌ぐ視力を達成することができるようになる」と言います。
 これらの技術を集約したTMTでは、すばる望遠鏡でははっきり見ることができなかった129億年前の銀河における星形成の様子を明らかにすることを目指します。また、高精度の分光技術によって、「太陽系外にある惑星の大気に、酸素や水、有機物などを検出し、地球に限りなく似た惑星を探すことで、生命の痕跡を見つけることができるのではないか」と期待しているそうです。


●高精度に時間を測る光

 一方、光格子時計を作った東京大学教授の香取秀俊氏は、「光で時空を測る―原子時計で時間の18桁目を読む―」と題して講演しました。現在、国際原子時はセシウム原子時計によって定められています。これは3000万年に1秒ずれるため、約1×10の-15乗、つまり15桁目まで分かる時計ということになります。それに対し、光格子時計は「宇宙の年齢138億年の2倍経っても1秒しか狂わない」という、18桁が読める時計です。この時計によって、「10年後には秒が再定義される可能性がある」と香取氏は言います。


  •   画像:講演者
  • 国際光年特別セッション/ Part3
    • 香取秀俊 東京大学教授

 このように高精度な時計を求める理由はいくつかあります。例えば、物理定数は本当に定数なのか、という研究につながります。現在、ダークマターと原子時計の相互作用は分かっていないため、太陽系がダークマターのあるところを通るとき、原子時計の時間が変わっているかもしれないというのです。
 さらに香取氏は、より高精度な時計ができると、「時計が量子・高度差計になり、いずれ水準点を置き換えるようになるかもしれない」とも話しました。18桁が分かる時計では、時計の位置が1cm高くなっただけでも時間が速く進んでいるということが分かるのです。
 「これまでは宇宙的規模でないと、一般相対理論の効果は分からなかった。しかし、光格子時計によって、重力で時空間が曲がっているということが、身近なスケールで分かるようになってきたと言える」と解説しました。


●光の特性を生かした映像アート

 アーティストであり、主にデジタル映像を扱う株式会社ネイキッドの代表である村松亮太郎氏の講演「光を操る」は、氏が手掛けたさまざまな光のアートの動画から始まりました。中でも有名なのは東京駅のプロジェクションマッピングですが、それらのアートのポイントは、「人間の目が、どのように光を認識しているか」を利用することだと言います。われわれは光を認識して「見て」いますが、光源があることを意識しません。その隙を突くことで、錯覚を起こさせるというのです。
 例えば同社は、錯視によって静止画が動いているように見せる「変幻燈」というNTTの研究所が開発した技術を用いて新しい映像表現に取り組んでいます。色をいじるのではなく、輝度を変化させているだけですが、「人間は明るさの情報に敏感に反応するため、絵が動いているように見える」と言います。


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  • 国際光年特別セッション/ Part4
    • 村松亮太郎 アーティスト・(株)ネイキッド代表

 また、「光が、どのように透過し、そして反射するか」という光の特性を活かしたアートも手掛けました。ある方向からの光は通過し、ある方向からの光は通過せずに反射するというナノテクノロジーを駆使した開発中の透明なフィルムを見いだし、展望台のガラス窓にそのフィルムを貼ることで、昼は普通に景色が見え、夜は窓に映像を投影し、夜景と映像の両方を見ることができるようになりました。
 村松氏は表現者として光には思い入れがある、と述べます。「光がないと真っ暗で、表現どころの話ではない。光があるから、色があって、美しいと感じることができる。そして色という認識があるからこそ、世界中の文化がある。表現者にとって光はもっとも重要なものではないかと思う」と語り掛けました。


●光も波、コントラバスで実演奏

 最後の講演は、面発光レーザーを発明した東京工業大学名誉教授・前学長の伊賀健一氏による「光と音:すばらしき波の世界」。コントラバスの演奏やパソコンでの音楽の再生などを交えながらの和やかな講演でした。


  •   画像:講演者
  • 国際光年特別セッション/ Part5
    • 伊賀健一 東京工業大学名誉教授・前学長

 弦の振動をゴム紐で実演する場面もあり、弦の振動は横波であることが眼で確認 できました。一 方,「音波は空気の粗密による縦波であるため、弦の振動と垂 直方向には音は出ない。ところが、コン トラバスのような弦楽器では、弦の横 振動が楽器のボディーに伝えられてボディー各部の板が縦振動する。そこから効率 よく縦波である音波が放 射される。」との説明がありました。そして光も音も 波であり、「今は分野として分かれてしまっているが、どちらも波動なので一緒 に勉強す るとよろしい」との若い人への助言がありました。
 続いて、氏の専門であるレーザーについてのお話がありました。半導体レーザーでは、電子とホール(エネルギーの低い軌道にできた電子の抜けた穴)が同じ空間に入ると、波動関数が干渉して光が出ます。同じ仕組みのLEDは自然放出光が広がるのに対し、レーザーは反射鏡を置くことで、光が干渉して一つの波長でビーム状になります。
 レーザーの研究が盛んになったのは1960年以降のこと。そして、伊賀氏が面発光レーザーのアイデアを思いついたのは1977年の夜中、寝ているときのことだったと言います。そのころレーザーにはいくつかの課題がありましたが、氏が不満を感じたのが、集積回路と同じような手法で出来る単一波長の半導体レーザーが無いことでした。まさに、「不満は発明の母」とのこと。その後、伊賀氏が研究開発した面発光レーザーは、高速LAN,レーザーマウス、レーザープリンタなど、さまざまな分野へ応用されるようになったのです。


 登壇者の方々の講演ごとに、来場者との間で質疑応答の時間がありました。参加していた高校生からも専門性の高い質問が出るなど、来場者は非常に熱心な様子。壇上からの返答にも熱がこもり、時間が足りないほどでした。
 セッションの最後には、JST副理事の伊藤宗太郎氏があいさつし、「世界の第一線、日本を代表する研究者とクリエイターの方々の、光に関するいろいろなお話をうかがいました。光のことについて考える機会になればいいと思います」とセッションを締めくくりました。


  •   画像:講演者
  • 国際光年特別セッション/おわりの言葉

【レポーターからのひとこと】
 光に関する多様なお話を伺っているうちに、あっという間に3時間が経ってしまいました。梶田隆章先生のノーベル賞受賞はもちろん、国立科学博物館の「ヒカリ展」など、個人的にも光に関連して心沸き立つことの多かった国際光年。このセッションでは、第一人者の方々を身近に感じ、その肉声を耳にすることができて、とても感慨深かったです。また、若い世代から年配層まで、熱心に耳を傾ける方が多かったことも印象に残りました。(谷内悠) 

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