E1315未来の技術でくらしが変わる

ニューロテックの未来をつくるSFワークショップ

ムーンショット目標1 金井プロジェクト

9月13日(日)15:30〜17:00 5階オープンスペースE

出展レポート

提起した問い・目指した未来像

ムーンショット型研究開発事業 目標1 金井プロジェクト「Internet of Brains(以下、IoB)」では、ニューロテックが社会に広がった未来で私たちがどのように生きていくのかを、市民の皆さまとともに考える科学コミュニケーションに取り組んでいます。
今回のワークショップでは、「記憶の保存と共有が実現したもしもの未来、あなたなら何を選ぶ?」という問いを掲げ、ニューロテックがどのように使われる未来が良いのかを、参加者の皆さまと一緒に考えました。私たちが答えや未来像を示すのではなく、誰もが自由な立場で、一人ひとりが「自分の未来」を選び、語り合うことを目指しました。
進め方は、アメリカの神経倫理の団体であるInstitute of Neuroethics(IoNx)と共同で設計しました。
今回、ブース出展も合わせて実施しており、ワークショップで狙ったのは、来場者同士での対話の実現です。
まず、未来にあるかもしれない4種類のニューロテックを紹介した「ニューロフューチャーズカード」をテーブルごとに読み、その技術を使いたいか、なぜそう思うかを話し合いました。続いて、立場の異なる役割カードから問いを投げかけ、新たに見えてきた課題によって考えが変わるかを考えました。後半は、記憶を書き換えたり、共有したり、消去したりできる未来を舞台にした空想科学コミュニケーション型アンケート「Neu Opinion Bank」を一人ひとりが体験し、たどり着いた未来について語り合いました。最後に、その技術が日常になった未来でどんなニュースが流れるかを想像し、見出しにしてもらいました。

参加者との対話から生まれた意見や気づき

当日は途中参加や入れ替わりも含めて約20名の方にご参加いただき、オンライン投票ツール(Mentimeter)で、話し合いの結果や一人ひとりの考えを集めました(各設問の回答は11〜15名)。以下、印象的だった点をピックアップしました。
■ 「使う・使わない」はすぐには決まらない
カードをめぐる話し合いでは、14名中11名が「使う・使わないの結論は出なかった」と答え、「使いたい」という結論になった方はいませんでした(「使いたくない」は3名)。一方で、使うとしたらどんな場面かを尋ねると「仕事」(11名)や「学校や勉強」(8名)が多く挙がり、仕事や学校で有利に進めるために使うかという問いにも「絶対に使わない」は0名で、「たまになら」(6名)、「大事なときに」(4名)と、条件つきで考える声が中心でした。全面的に受け入れるのでも拒むのでもなく、どんな場面なら、どこまでなら使うのかという線引きを、それぞれが探っている様子がうかがえました。
■ 記憶は「買いたい」けれど「売りたくない」
Neu Opinion Bankでは、記憶を手放す側に立つことへのためらいがはっきり表れました。たどり着いた未来が現実になったら記憶を買いたいか、売りたいかを4段階で尋ねると、「買う」の平均が2.7だったのに対し、「売る」は1.8で、「とても売りたい」と答えた方はいませんでした。選ぶときに大切にしたこととしては、「選択する自由」(4名)や「自分や家族への利益」(3名)が多く挙がりました。記憶を感覚ごと他者に伝える「メモロ神経スレッド」のカードをめぐっても、戦争体験のような歴史的な記憶を次の世代に伝える使い方が考えられる一方で、限られた人しかできない体験の記憶は高く売れそうだ、という声が出ていました。
■ 未来のニュース見出しに映った期待と不安
最後に考えてもらった未来のニュース見出し(11件)には、「『キオハラ』防止条例制定」「記憶の捏造犯罪が急激に増加しています」といったルールや犯罪への備え、記憶の流出や売買をめぐるトラブル、「遺族への手紙。最愛の人に遺された最期の記憶。」のような気持ちに寄り添う使い方、そして記憶から新しい発見が生まれる明るいニュースまで、さまざまな未来が並びました。リスクだけでも期待だけでもなく、制度や暮らしの細部にまで想像が広がったことに、物語や見出しという形の力を感じました。

対話を通じて得られた未来へのヒントと今後の展望

今回のワークショップでは、多くの方が「使う・使わない」の結論は出なかったと答えました。ただ、それは対話がうまくいかなかったのではなく、技術の便利さと、その先にある課題の両方に向き合った結果だと考えています。すぐに答えを出すことよりも、どんな場面なら、どこまでなら受け入れられるのかを迷いながら考える時間そのものに価値がありました。今後は、その迷いを言葉にして持ち帰っていただけるような問いや振り返りの工夫を重ねていきたいと考えています。
また、記憶を「買いたい」けれど「売りたくない」という傾向や、見出しに表れた「キオハラ」のような新しい課題は、技術をつくる研究者だけでは気づきにくい視点です。Neu Opinion Bankで集まった声を、研究者との対話や、これからのルールづくりの議論につなげていく仕組みを、IoNxとも協力しながら育てていきます。
立場や背景の違う参加者が同じテーブルで未来を語り合う場をいただいたサイエンスアゴラの皆さま、そしてご参加いただいた皆さまに、心より御礼申し上げます。

当日の様子