A1310いのち・からだ・医療のひみつ

AIでつむぐ、みんなの共創アイデアソン

当事者の声からインクルーシブ社会を目指す団体

9月13日(日)10:30〜12:00 1階オープンスペースA

出展レポート

提起した問い・目指した未来像

【問い】「同じ場面を見て、何に気づく?」「どんな未来なら、もっとみんなが参加しやすい?」
車いす・視覚・聴覚に障害のある当事者(リードユーザー)と来場者が、一緒にサイエンスアゴラの会場を探索するのを観察し、その観察を含めて、何を考え、どう思っていたのか?など、普段考えていること・感じていることを、双方向に対話する参加型アイデアソンを行いました。「障害のある人の困りごとを解決する」という一方向の関係ではなく、当事者も共創メンバーとして問いを広げ、AIも使いながら未来を描き、共有できる表現や形にすることを目指しました。今回行った流れは「会場での行動観察 → 気づきを付箋で共有 → 対話 → AIで4コマ漫画にして発表・共有」です。各テーブルには、会場の中で実際に体験する「お題」を設けました(車いす:コンビニへ/視覚:トイレへ/聴覚:出展ブースへ)。事前予約は21名。会場で興味を持ってくれた高校生6名が直前の予約で参加してくれました。
【昨年の反省から】
昨年(E2515)は、視覚と車いすの4グループで、デザイン思考の流れと寸劇によるプロトタイピングを行いました。このとき「聴覚障害のある参加者とのコミュニケーション環境が十分に整っていなかった」ことを、大きな反省としていました。また、当事者メンバーには数日前に急きょお願いする形になっていました。今年はこの2点を、新たに改善できる伸び代として、次の3つを工夫しました。

工夫1:リードユーザーを各テーブル2名以上に
各テーブルに、当事者であるリードユーザーを2名以上配置しました。車いすと視覚のテーブルでは、経験者と、リードをほとんど経験していない人を組み合わせています。次の世代のリードユーザーを育てるためです。さらに、同じ障害のある人どうしで「リードのあり方」を振り返り、いろいろな視点からフィードバックを得られるようにしました。
工夫2:聴覚障害の当事者と一緒に設計し、コミュニケーションを取りやすい工夫をした
今年は初めて、ろう・難聴のテーブルを設けました。ろう・難聴の当事者とは、準備段階から一緒に企画をつくりました。当日はすべてのテーブルにPCを用意し、聴覚のテーブルには大型ディスプレイを持ち込んで、文字起こしや入力した文字をみんなで見られるようにしました。
工夫3:開催1週間前の事前準備会
当事者メンバーと事前の準備会を開き、当事者のリードユーザーやガイドヘルパーの方、また当日のフォロワーをしてくださる様々な方々にお集まりいただきました。そこで全体的な流れの中で、対話を大切にすること、そのためには何が必要になるか?ということも設計から相談してゆきました。さらにその中で、実際に準備会を開かなければ発見できないこともありました。例えば、視覚障害のリードユーザーと聴覚障害のリードユーザーがディスカッションする際には、どうなることかと思いましたが、文字起こしアプリで文字にした情報を、スクリーンリーダー(VoiceOver)で読み上げることで達成しました。他にも、あらゆる障害でそうなのですが、障害の有り様が、個々人で違う、その人その人と向き合うことが大切だと、改めて腹落ち致しました。準備から一緒につくる時間そのものが楽しく、学びと新しい問いがいくつも生まれる場になりました。

【目指した未来像】
障害の有無や種類、年齢を越えて、誰もが「行きたい時に、行きたい場所へ」行けて、「話したい時に話せる」そして、対話が続いてゆく、そんな社会です。そしてその社会を、専門家だけでなく、当事者も、高校生も、たまたま通りかかった人も一緒に、小さな気づきから形へ繋げてゆくことが出来るよう、目指してゆきたいと考えています。

参加者との対話から生まれた意見や気づき

観察と対話から、154枚の付箋に記されたたくさんの疑問や気づき、アイデアが生まれました。各テーブルはそこからさらなる対話を通して未来の姿を描き、AIで4コマ漫画にして、みんなで共有しやすい形にしました。
【車いす:コンビニへ】
ATM、セルフレジ、冷蔵庫のドリンクを使ってみました。上段の商品に手が届かない。台の下に足が入らず、前に寄れない。ドアは押すのか引くのか。通路に置かれた物で、バリアフリーが台無しになる。ガイドと参加した視覚障害のある参加者は、車いすが突っかかってセルフレジのタッチパネルに届かず店員さんにお願いするのを見て「セルフレジを使えないのは、視覚障害のある人だけではない」と気づきました。駅のホームの車いすの方が乗り降りしやすいピンクで色付けされた乗り口のように、掲示があっても周りの人が気づかないのはなぜか、も話題になりました。4コマ漫画は「今したい時に可能となる。誰でもが自由に。」。人の手を借りなくても買い物できる未来を描きました。

【視覚:トイレへ】
ブースからトイレのサインは見えません。最初に向かう方向だけを伝え、あとはリードユーザー2人が声を掛け合いながら探しました。壁や、床と絨毯の境目、白杖が当たる音を頼りに進みます。スタンド看板やソファにぶつかる。一度方向を見失うと、自分がどこにいるかわからない。少し見えるからこそ色で判断し、コンビニの看板をトイレのサインと見間違える場面もありました。多機能トイレの中では、カバー付きのペーパーホルダーがなかなか見つかりませんでした。対話では、「見える人は壁を避けるが、見えない人は壁に触れていないと不安」「ぶつかるのはダメではない」という声がありました。「音声で案内するAIも、改札などでは役に立たなかった」という経験も共有されました。4コマ漫画は「迷わないトイレナビ」。男性は青・女性はピンクの色、直線と波型の床の溝、音声案内を重ねて案内します。「視覚以外の情報は、どれか1つではなく、思いついたものが全部あるとよい」というリードユーザーのまとめが、そのままAIへの指示になりました。

【聴覚:出展ブースへ】
「見た目では障害がわからない」「お互いにうろたえ、申し訳ないと思ってしまう」「通訳者ではなく、自分を見てほしい」。スマートフォンを見ていると、相手と目を合わせられません。聞く・考える・入力するを同時にこなす大変さもあります。文字では感情や抑揚が伝わりにくく、誤変換で意味が変わることもあります。「本当はツールを使わずに話したい」という声もありました。話し合いでは、「お互いの障害に気づけない」「気づいても、どうしたらよいかわからない」が問題として浮かび上がりました。参加者にも多様性があったからこそ、自然に出てきた問いです。4コマ漫画では、ブースが対応できることをマークで示し、音声認識の画面を見せながら話し始める未来を描きました。

【予想外の出来事と、リードユーザーの力】
当日は、運営側が心配していたことも、予想していなかったことも起こりました。そのたびに、リードユーザーの皆さんが、予想以上によい形で場を変えていってくれました。たとえば聴覚のテーブルでは、文字起こしアプリをどの段階で紹介しようか、と運営側は考えていました。ところが、リードユーザーが行動観察のときから使っている文字起こしアプリに、参加者が興味を持って「それは何?」と聞いてくれたことで、自然にスマートフォンで文字起こしをする形でコミュニケーションが始まりました。持ち込んだ大型ディスプレイは、リードユーザーが打ち込んだ文字をその場のみんなに見せるのに役立ちました。どちらも運営が決めたのではなく、グループがアイデアソンを進める中で自然に生まれました。視覚のテーブルでも、方向だけを伝えて、あとはリードユーザー自身がトイレを探しました。ぶつかったり見間違えたりする様子を観察することが、参加者にとって一番の気づきになりました。初めてリードを担った当事者からは、「みんなの意見を引き出すことが難しかったが、こういう立ち位置は経験したことがなくて、面白かった」という声も届きました。

【リアルで会うから生まれるもの】
人と人がリアルで触れ合うとき、思いもよらないケミストリーやセレンディピティーが生まれます。文字起こしアプリの場面も、直前予約で参加した高校生が対話に加わったことも、計画して生まれたものではありません。直接会って、対話し合うことが、一番大切で、一番発見がある。そう強く感じたイベントでした。

【テーブルを越えて】
「障害のある人どうしでも、他の障害には気づきにくい」ことが見えてきました。同じ障害でも、程度や組み合わせは人それぞれです。アンケートには、「自分の当たり前は、誰かの当たり前じゃない」「コミュニケーションできないことよりも、申し訳ないと思っていたことが意外だった」「色が識別できる人もいる。視覚障害のある人にも、いろいろな人がいる」「手話には、日本手話と日本語対応手話の2種類がある」「世界中の人が、得意なコミュニケーションが違うだけだという視点を得た」「当事者も共創のメンバーとして、一緒に観察し、考え、未来を描いていく構成が印象的だった」といった声が寄せられました。

対話を通じて得られた未来へのヒントと今後の展望

【参加者アンケートの結果】
参加者から、車いす3・視覚3・聴覚6の合計12件の回答を頂きました。5段階の平均と、4以上の割合は次のとおりでした。
・自分とは違う立場の人の見え方が、分かった:4.50(92%)
・安心して話すことができた:4.42(83%)
・新しい気づきや、考え方の変化があった:4.42(83%)
・話したいときに、話せた:4.33(92%)
・全体として、満足している:4.25(83%)
・全体の流れは、分かりやすかった:4.00(75%)
時間の長さ(約90分)は、「ちょうどよい」6名、「短い」4名、「長い」2名でした。「異なる立場の見え方がわかる」という、この企画のいちばんのねらいが最も高く評価されました。一方で、「流れのわかりやすさ」が最も低く、次回の一番の改善点です。「明日から自分にできそうなこと」には、「話しかけてみる」「手話の勉強」「筆談と話し言葉の違いを意識する」「心配しすぎず、無関心にもなりすぎず、ほどよく朗らかに」などが挙がりました。参加者の行動が、少しずつ変わり始めています。
【対話から見えた5つのヒント】
・ひとつの改善が、多くの人を助ける。セルフレジの使いにくさは、車いすと視覚障害に共通していました。障害ごとの対応ではなく、みんなが使える形を考える価値があります。
・案内のヒントは、重ねる。色・溝の形・音声・香りを組み合わせれば、見え方の違う人それぞれに届きます。
・対応できることを、先に見せる。マークや音声認識の画面で「ここでは話せます」と示せば、お互いの「申し訳なさ」が減ります。
・ツールを重ねれば、障害を越えて話せる。文字起こし+読み上げのように、既にある道具を組み合わせるだけで、視覚と聴覚のように異なる障害のある人どうしでも対話できます。
・AIは、対話を形にして共有する道具。答えを出すためではなく、気づきを4コマ漫画にして、みんなで未来を見せ合うために使いました。「まとめにAIを使うのは新しかった」という声もありました。これこそ、AIは主体でなく手段、私たちの対話を促進する触媒として機能させることに一定成功したと考えています。
【見えてきた課題】
・流れと時間配分を最初に示す。「何のために動くのか」「各ステップにどれくらい時間を使うのか」を先に共有してほしい、という声が複数ありました。後半が駆け足になり、4コマ漫画を磨き上げる時間がありませんでした。
・移動にかかる時間を前提にする。グループ分けや席への移動にも時間がかかります。混雑したブースへの行動観察に、車いすの参加者がついていけない場面もありました。
・音の環境。吹き抜けの会場では声が上に逃げ、同じテーブルでも聞き取りにくい場面がありました。テーブルの間隔も、車いすを前提にもっと広くとれるとよいです。
・複合的な障害のある人の参加。発話が難しく、筆談で参加していた方が、席の位置もあって対話に加わりにくい場面がありました。「同じ障害でも、本当に濃度の差がある」という指摘もいただきました。
・若い参加者の声を引き出す。「学生さんのアイデアを引き出し、発言の機会を増やす工夫が必要」という声がありました。
【若い人たちへ】
今年は、会場で興味を持ってくれた高校生6名が、直前予約で参加してくれました。参加者からは、「学生さんが、障害者対応は国の役目だと思っていたことが意外だった」という声もありました。だからこそ、若いうちに当事者と直接話し、「自分にもできることがある」と気づく機会には大きな意味があります。「高校の総合的な探究の時間で使えそう」という声も届きました。若い人たちには、ぜひ参加してほしいと思います。次回は、中高生や大学生が参加しやすい形や、学校の探究学習とつながる形も考えていきます。

【今後の展開】
次回に向けて、具体的に取り組むこと
・最初に、全体の流れと時間割、各ステップのねらいを共有する
・移動に時間がかかる人を前提に、行動観察と時間配分を設計する
・音の環境とテーブルの間隔を、会場選びの段階から考える
・事前準備会を続け、異なる障害のある人どうしの対話の方法を、当事者と一緒に磨く
・今回初めてリードを担った当事者が、次は経験者として新しい仲間を迎える
リードユーザーからは、「今後もリードユーザーとして協力したい」という声が届いています。この循環で、共創の場をつくれる人を増やしていきます。

その先に目指すのは、まぜっこぜな状態でも、誰もがインクルーシブな形でAIアイデアソンやAIハッカソンを開ける未来です。そのための工夫や手法を蓄積し、広く展開していきます。いろいろな立場の人が、境界を越えて対話できるようになれば、日本や世界のどこでも、その場所の課題をその場所で解いていけるはずです。そんな「課題の地産地消」を支えるコミュニティ活動と、その横展開を育てていけたらと考えています。

【感謝】
今回も、準備の段階から多くの方にご協力いただきました。そして興味を持ってくださった方、応援してくださった方、参加してくださった参加者の皆さん、誰一人欠けても、今回の気づきも学びも失敗も、全部生まれ得なかったと思います。大大大感謝です!改めてお礼申し上げます!ありがとうございます!
そして、準備から一緒につくる時間は、とても楽しいものでした。是非是非、新しい方々も含めて、皆さんとご一緒したいです!心より感謝申し上げます。

当日の様子