508未来の技術でくらしが変わる

アゴラdeニューロテック 〜あなたと描く2050年〜

ムーンショット目標1 金井プロジェクト

9月12日(土)10:00〜18:00、13日(日) 10:00〜17:00 テレコムセンタービル 5階

出展レポート

提起した問い・目指した未来像

ムーンショット型研究開発事業 目標1 金井プロジェクトInternet of Brains(以下IoB)が進めるニューロテックの研究開発が未来の社会に普及したら、どんな未来がやってくるだろうか?という大きな問いのもと、来場者の皆さまと対話を実施しました。
IoBが所属しているムーンショット型研究開発事業目標1は「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」を目指し、サイバネティック・アバターと呼ばれる自分の身体のように扱えるロボット・アバターなどを実現する研究開発を実施しています。IoBはその中でも神経科学の研究とそれに基づいたニューロテックの研究開発をしており、脳からロボット・アバターの操作やコミュニケーションの実現などを目標に掲げています。
その大目標がありつつ、今回ブースを出展しましたサイエンスコミュニケーションプロジェクトは、未来像を提示するのではなく、前述の問いから始まる対話を通して、市民の皆さんとともに考える足がかりとなることを目指しました。
しかし、普段馴染みのない研究やテクノロジーについて問いかけられてもなかなか考えを言葉にすることは難しいのではと考え、問いから思考し、また、ご自身の中から新たな問いを発見するきっかけとして研究紹介にとどまらず、物語と体験の力を借りました。
物語は私たちが実践している空想科学コミュニケーション(Speculative Science Communication)企画である「Neu World」です。IoBの研究者と作家の皆様のコラボレーションで生まれた18作品の2050年を描いたSF小説・漫画を想像力を掻き立ててもらい対話をしました。さらに今回はアメリカの神経倫理の団体であるInstitute of Neuroethics(IoNx)とコラボレーションして制作した「記憶が記録できるニューロテックが実現した仮の未来での価値観を問う」空想科学コミュニケーション型アンケートシステム「Neu Opinion Bank」も展示いたしました。
体験は、IoBで開発している簡易的に取り回しが可能な非侵襲型BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)を活用して体験できるゲームたちを展示。
実際の研究紹介・BMIゲーム体験と物語双方を通し、未来について対話を行いました。

参加者との対話から生まれた意見や気づき

脳波ゲームをきっかけに足を止める方が多く、子どもがゲームを体験している間に保護者へ研究ポスターを解説するなど、親子それぞれ異なる入口から対話が生まれました。Neu Opinion Bankに紐づけて没入感を演出するために制作した未来の記憶売買レシートと価値観によって異なる設定の未来を世界をイメージした4つのスタンプは小さなお子様にも好評で、そこから会話が始まることもありました。ポスターゾーンにはIoBの研究者も参加し、専門的な対話も行われました。全体を通して、科学への関心が高く、踏み込んだ質問をしてくださる方が多かったことも印象的でした。
以下いくつか印象的だった対話をピックアップしました。

■ 記憶は「誰のもの」か
「Neu Opinion Bank」をきっかけにした対話では、「記憶は個人だけのものではなく、他者の個人情報も含まれる。だから個人の判断だけでは決められない」という意見がありました。公共の出来事の記憶なら共有してもよいが、家族との記憶は守りたい、という線引きです。その感覚は世代によっても違うのでは、という見方も出ました。技術の可否ではなく「どの記憶を、誰と」という粒度で論点が立ち上がったのは、興味深いところでした。
■ 体験から研究の話へ
額に簡易的な脳波計をつけて遊ぶ「無心カプセル」などのゲームは、お子さんから大人の方まで多くの人が足を止めるきっかけになりました。ゲームを楽しんだあとに実際の研究を紹介すると、「そんな研究があるの?」「もうそこまでできているの?」といったコメントもいただき、体験が研究の話への入口として働いていました。
■ SFプロトタイピングを用いた科学コミュニケーション
「意識とは何か、心とは何かを考えさせられた」という感想や、「技術の先にあるディストピアを示すだけでなく、どのような善い使い方がありうるかを模索したい」という声がありました。また、SFプロトタイピングには、リスクの可視化やアイデアの創出だけでなく、「最新の研究に合わせて現在の価値観そのものを揺さぶり、更新していくこと」という役割もあるのでは、という示唆もいただきました。

物語やゲーム体験を通して未来の可能性を探る対話であっても、研究がいまどこまで進んでいるのかと、物語が描く未来との距離を丁寧に分けて伝える必要があります。また、技術をどう使いたいか、期待や不安を突然尋ねても、その場で考えを言葉にするのは難しいものです。物語や体験を入口にすることで対話は生まれましたが、来場者がじっくり考える時間をどうつくるか、どのように生活に持って帰っていただくかは、今後に向けた課題として検討してまいります。

対話を通じて得られた未来へのヒントと今後の展望

対話でうまれた意見は賛成や期待だけではなかったことは重要だと思っています。善い使い方を探りたいという声や、研究の進展に合わせて自分たちの価値観そのものを更新していくという視点とともに、技術がもたらしうる不安やリスクについても多くの意見をいただきました。
そして、これらの対話は一回で終わらせないようにする必要があります。サイエンスアゴラでも、昨年もブースに来たよって言ってくださる方が複数名いらっしゃいました。継続的なコミュニケーションができる場として本当に貴重であると改ためて実感するともに主催側の皆様に御礼申し上げます。
科学技術が社会に与える様々な面と向き合いながら、どんな未来をつくりたいのかを一緒に描いていくための継続的な場をつくり、一人ひとりが自分なりの価値観を見つけ、持ち寄るための工夫についても広がりを持たせて行きます。
例えばサイエンスアゴラでは、声の集め方も見直したいと考えています。スマートフォンでのアンケートフォームはサイエンスアゴラのような色々なブースを回る催事では難しさを感じました。一方で、会場ではシールや投票で意見を募る施策をしている方々も多く、その手法を次年度には取り入れたいと考えております。意見が目に見える形で並べば、ほかの人の考えをきっかけに会話も生まれます。アゴラらしい対話の場を次はつくってみたいと思います。
また、こうした活動をムーンショットを起点に日本の科学コミュニケーションに根付かせてほしい、人文社会科学やゲーム・アートとも連携してほしいというお声などもいただき大変励みになりました。

当日の様子