408地球・環境・未来を守る

目に見えない宇宙線に触れてみよう

加速キッチン

9月12日(土)10:00〜18:00、13日(日) 10:00〜17:00 テレコムセンタービル 4階

出展レポート

提起した問い・目指した未来像

宇宙線は、いまこの瞬間も私たちの体を毎秒1個ほど通り抜けています。しかし、見ることも聞くことも触れることもできません。
昨年(2025年)のサイエンスアゴラでは、KEKと共同で「音が出る宇宙線の検知器」を出展しました。視覚障害のある方にも宇宙線を楽しんでいただきたい、というインクルーシブな展示です。そこで得たフィードバックが、今年の出発点になりました。ひとくちに視覚障害といっても、点字を読む方、拡大鏡を使う方、音声で聞く方と受け取り方はさまざまで、障害の中にも多様なバックグラウンドがあります。ひとつの「正解の感じ方」を用意するのではなく、複数の「感じられ方」を並べて提示することこそが大事なのではないか——そう考えました。
そこで今年は、宇宙線が飛来した瞬間を5つの異なる感覚に翻訳する展示に組み替えました。①霧(霧箱の中に走る白い飛跡)、②電気信号(画面に現れる生の波形)、③音(エネルギーで音程が変わる電子音)、④光(1分に1回ほどしか光らない小型検出器「ミニクラゲ」を多数配置)、⑤振動(エネルギーに応じて手のひらが震える、今年の新装置)。
提起した問いは、「目に見えない・感じられないものが『来た』と、人はどのように直感的に受け取るのか」です。視覚障害のある方に限らず、多様なバックグラウンドと幅広い世代の方から意見を集め、放射線・素粒子を実感する人間のメカニズムに迫ること。そして、誰もが自分に合った入口から科学に触れられる展示・教材のあり方を見つけることを、目指す未来像として掲げました。
なお展示した検出器の多くは、加速キッチンで探究活動に取り組む中高生と、それを支える大学生・大学院生が自ら組み立てたものです。

参加者との対話から生まれた意見や気づき

受付では「宇宙線の旅」の搭乗チケットをお渡ししました。5つの装置を回り、宇宙線が感じられたものすべてにチェック。いちばん感じられたものをひとつ選んでコメントを書き、半券をちぎって同じ色のボードに貼っていただく——アンケート用紙ではなく「旅の道具」にしたことで、来場者は自然に5つすべてを試し、貼られた半券はそのまま私たちのデータになりました。用意した600枚は会期中に配り切り、その後はチケットをお渡しできないまま体験された方もいたため、実際の体験者はこれを上回ります。
いちばんの驚きは「偏らなかった」ことです。事前には「人間として最も感じやすい方法があり、回答はそこに大きく偏るはずだ」という仮説を持っていましたが、実際には霧・電気信号・音・光・振動のどれもが満遍なく「一番感じられた」と選ばれました。未知のものをどう受け取るかはその人の背景によって非常に多様であり、多様な伝え方を用意すること自体に価値がある——ボードがそれを教えてくれました。
個別の対話からも発見がありました。音は電子音として表現したところ、「ピコピコ音がすごくSFチックでイメージが湧きやすい」など音色そのものへの具体的な意見が集まり、「何の音で知らせるか」も設計の一部だと分かりました。光は、有効面積が小さく1分に1回ほどしか光らない検出器をたくさん並べて「たまにどれかが光る」状態をつくったところ、宇宙線は波のように一様に降るのではなく粒子としてピンポイントに来る、というランダム性が直感的に伝わり、「ハッとさせられた」という声をいただきました。今年新設した振動は、視覚障害のある方から「音以上に、目が見えない中でも感じやすい」との評価を得ました。電気信号は「オシロスコープみたいだ」「最も定量的に観測できる」と、特に大人の来場者に響きました。霧箱には「放射線を人生で初めて見ました」「Seeing is believing」という声が寄せられました。

対話を通じて得られた未来へのヒントと今後の展望

今回いちばんのヒントは、「伝え方の多様性そのものが、インクルーシブな科学コミュニケーションの中身である」ということでした。ひとつの最適解を探すのではなく、複数の翻訳を同時に並べる。その設計方針を、展示だけでなく検出器そのものに返していきます。
具体的には、(1) 中高生に貸与する宇宙線検出器に、音・光・振動など複数の出力を選べる設計を標準的に取り入れること、(2) 視覚障害のある方から高い評価を得た振動出力を、エネルギーの違いがより明瞭に伝わる形へ改良すること、(3) 電子音の音色やミニクラゲの配置密度など、来場者コメントから見えてきた「伝わる条件」を次の展示と教材に反映すること、(4) 5色のボードに集まった半券とコメントを整理し、「人は見えないものをどう実感するのか」という問いを中高生自身の探究テーマにつなげること、の4点に取り組みます。
もうひとつの大きな成果は、中高生が市民と直接対話できたことです。加速キッチンは年間数百人の中高生に検出器を貸与し、自宅での宇宙線観測と素粒子探究を支援しています(これまでに支援した中高生観測者は300名以上、観測は19カ国に広がっています)。今回ブースに立った中高生は、自分たちがつくった検出器について説明し、「どう伝えればもっと伝わるのか」を来場者から直接教わりました。測る人と受け取る人が同じ場所で言葉を交わす——サイエンスアゴラならではの意義が大きく生まれた2日間でした。今後も、この往復を検出器の設計と探究支援の両方に還元していきます。