406いのち・からだ・医療のひみつ

言えない「空気」に、感染症ははびこる

感染研&akta

9月12日(土)10:00〜18:00、13日(日) 10:00〜17:00 テレコムセンタービル 4階

出展レポート

提起した問い・目指した未来像

本企画では、「HIVの感染がわかった人がいるときに、周囲のどのような反応に対して最も『もやっ』とするか」という問いへの投票を起点に、HIVの感染がわかった人や、感染の心配がある人を取り巻く科学や社会の状況について情報提供をしながら、付箋や直接の対話を通じて来場者と考える双方向型のブース展示を行った。当事者を透明化させたり、予防や検査などへのハードルとなったりしうる、これら周囲の反応を含む社会の「空気」や「雰囲気」をどのように変えていけば、感染症について安心して話すことができ、検査や予防、治療への社会的なハードルのない未来への道筋を描けるかを議論した。
また、こうした周囲の反応がつくる社会の「空気」を主題としたブース展示に対して、「自分の加害性への恐怖」「自責の念」「未来を奪われた恐怖」など、当事者の内面を掘り下げるトークセッション形式の公開収録(aktaのYouTubeチャンネルで公開予定)を実施し、展示とトークの両者が補完し合う構成とした。

参加者との対話から生まれた意見や気づき

投票(総数326票)では、「一緒に食事をとるのは怖いかも」(青)が97票で最も多く、次いで「何があって感染したの?知りたい」(ピンク、68票)、「感染を理由に、診てくれない病院があるのも仕方ない」(オレンジ、64票)、「周りの人には、ちゃんと伝えたほうが良いよ」(緑、43票)、「感染してもすごく頑張っていて、えらい」(黄緑、39票)、「特にない」(白、15票)と続いた。悪意や偏見の自覚がなくても、日常のふとした言葉や態度が『もやっ』とする要因になり得ることが、投票結果からもうかがえた。
付箋による自由記述(計105件)では、投票で最多だった「青」のカテゴリに最も多くの記述(30件)が寄せられた。その多くは、正しい科学的知識の普及を解決の方向性として挙げるものであった。加えて、知識の普及にとどまらない提案も見られた。保健の授業で感染を伝える場面を想定したロールプレイを取り入れる案、具体的な案ではないもののレジ袋の有料化のように人々の行動や「空気」を変える施策もありうるのではないかという意見、医療者へのトレーニングなどの支援・啓発を求める声、「なんで?と聞いてみる」という当事者自身が対話の糸口をつくる姿勢への言及など、多様な切り口からの意見が寄せられた。
直接の対話では、具体的な考えを言語化できないまま悩み続けた来場者も少なくなかった。明確な答えに至らなかったことは、展示が投げかけた問いをより深く受け止めた結果である可能性も考えられる。また、HIVやエイズを初めて知ったという若年層や、展示の情報提供によって『不治の病』というイメージから更新されたという方も多いなど、U=UやPrEPなど現在の治療・予防の現状を含む、この感染症に関する認知が世代を問わず十分に広まっていない実態も確認された。加えて、2日目にブース入口へ掲出したプライドフラッグをきっかけに、家族の性別違和や自身の性的指向について語られる場となったことも報告されている。

対話を通じて得られた未来へのヒントと今後の展望

本企画では、まず、最低限の情報提供とともに、正しい知識の提供だけでは払拭しきれない、無自覚な言葉や態度がもたらす社会の「空気」や「雰囲気」の存在を前提として共有した。また、HIVとともに生きる人、当事者・支援者団体メンバー、研究者、コミュニケーターなど多様なスタッフが対話の場に立つ構成とした。来場者を加えた多様な視点からの認識、情報のギャップを埋めながら、意見が交換される場として機能したものと考えられる。
対話や付箋に寄せられた来場者からの提案は、知識の周知にとどまらない具体的な打ち手として、今後の科学コミュニケーション・リスクコミュニケーションのあり方を検討するうえでの手がかりとなる。とりわけ、教育・医療・行政・当事者など立場の異なるステークホルダーそれぞれに向けた働きかけの方向性が示された点は、情報を市民や当事者に一方向に伝えるだけでなく、多様な主体と意見を交わしながら進めるリスクコミュニケーションの設計に直接活かせる知見である。
公開収録のトークでは、HIVと生きる方から、周囲から根掘り葉掘り事情を尋ねられる背景として、「自分とは違う属性だと納得することで、自分とは関係ない問題だと安心感を得ようとする心理があるのではないか」という趣旨の発言があった。周囲の社会との間にある当事者性の隔たりが、こうした心理的な距離のとり方につながっている可能性がうかがえる。これを見ていた来場者からも、情報を正確に伝えることと、当事者の課題を自分に関わること・相似するものと受け止めてもらうことの間には距離がある、という類似の実感が共有された。当事者の課題が自分事化されるように社会とのコミュニケーションを実施する方法論については、知見を共有・蓄積していく必要がある。

当日の様子