刺身の美味しい解凍法? ~食材でのぞく病理の入口~
いわて病理をみる会
9月12日(土)10:00〜18:00、13日(日) 10:00〜17:00 テレコムセンタービル 4階
出展レポート
提起した問い・目指した未来像
「冷凍したマグロのお刺身は、どのように解凍すると美味しく食べられるのだろうか?」という問いを入口に、提示した肉眼写真や顕微鏡写真をともに観察して違いを見出し、その理由を考える体験を企画しました。病理診断も、組織や細胞の形態の違いを見つけ、その意味を考え、名前をつける(診断する)営みです。マグロの美味しい解凍方法を形態から考える過程には、病理診断の思考過程と共通する部分があります。
病理と社会との接点は限られており、その存在や役割が十分に認知されているとは言えません。本企画では、身近な食材の観察を通じて、病理を医療関係者だけの専門領域ではなく、誰もが楽しめる科学として紹介しました。単に病理という言葉を知ってもらうだけでなく、比較によって違いを見つけ、その意味を考える「病理の視点」が、科学を楽しむ手法の一つとして社会に浸透することを目指して出展しました。
参加者との対話から生まれた意見や気づき
参加者からは、解凍条件によるマグロの見た目や食感の違いについて、多様な予想や経験が語られました。問いから始めることで、参加者自身の観察や推論を引き出せることが分かりました。直感的な予想と結果が異なることが多く、驚きの声が聞かれました。体験後は、「マグロの観察と病理が一体どうつながるのか分からない」「普段もマグロを見ているのですか。そんなことないですよね?」という疑問が複数聞かれました。病理の役割を最初に説明しようとすると、悪性腫瘍の診断や死因究明としての病理解剖などが前面に出て、痛み、病気、死といった暗く怖い印象を与える可能性があるため、病理についての事前の説明は殆ど行わず、病理の思考過程を自然に体験してもらえるような構成としました。体験後に生じた上記の疑問は新たな対話の契機になり、対話を重ねることで病理への興味関心が自然と生まれる様子がみられました。形態観察の面白さを入口に病理を知ってもらうという企画意図は、概ね達成できたと考えます。しかし、「マグロの美味しい解凍方法を形態から推測したこと自体が、病理診断過程そのものだ」という、「つながり」は、すべての参加者にとっては必ずしも明解ではなかったため、このつながりをある程度明示的に補足する必要性を感じました。また、メイン企画ではマグロの顕微鏡観察により解凍方法を推測してもらいましたが、逆に「拡大すると、わからなくなる?!」と題したサブ企画として、肉眼では一目で区別できるものが、顕微鏡で見ると判別しにくくなることを、ナメコとシメジの比較で体験してもらいました。この逆転は、子どもから大人まで幅広い年代の参加者の関心を引きました。「なぜナメコだとわかったのですか?」という問いが、普段は無意識に判断している色や形、質感などの違いを改めて考える場面を生んでいたようです。
対話を通じて得られた未来へのヒントと今後の展望
科学を社会に届ける活動に関心を持つ様々な立場の参加者や出展者から、出展内容の独自性が評価されました。食品を題材に問いを軸とした企画を、さらに発展・継続させる価値があると感じました。また、予想外の体験が参加者自身の観察や思考を促すことも分かりました。参加者が自分の見方や判断の過程に気づく展示や対話を設計することが、今後のアウトリーチ活動をする上での重要なヒントになりました。今後も幅広い参加者が集まる場への出展を継続するとともに、地元での活動の機会を探ります。様々な分野で科学コミュニケーションに携わる人との連携も模索し、継続的に実施できる体制を整えるため、助成金などの資金獲得にも取り組みます。
当日の様子