綿から糸に!? ~ガラ紡で体験する糸づくりの科学~
東京農工大学 科学博物館支援学生団体musset
9月12日(土)10:00〜18:00、13日(日) 10:00〜17:00 テレコムセンタービル 3階
出展レポート
提起した問い・目指した未来像
本企画では、来場者が綿から糸へ紡がれる過程を実際に体験することで衣服が繊維という素材から成り立っていることへの気づきを促すことを意識した。東京農工大学科学博物館で栽培した綿を使用し、来場者の手によってふわふわの綿を糸にするという体験をしてもらった後、「ガラ紡」で紡がれた糸を実際に見てもらい、その糸の特徴を伝えながら「このような糸をどのようなものに使いたいか」を問いかけた。
また、東京農工大学科学博物館に展示されている「ガラ紡」の模型を用いて,その紡績の仕組みについて解説した。その際、博物館資料を過去の技術として紹介するだけでなく、現代の社会課題を考えるきっかけとして捉え、これからの紡績の在り方を来場者とともに考えることを目指した。そのため、「ガラ紡」と近代紡績機の特徴を比較する際にも、どちらが優れているかという優劣ではなく、それぞれがもつ特徴や良さに着目した。さらに、「未来の糸づくりで大切にしたいこと」や「未来の紡績機にどのような機能があるとよいか」を問いかけ、来場者との対話を通して、これからの糸づくりについて考えてもらうことを試みた。
これらの問いかけを通して、素材の特性を生かした使い方や、生産方法を選択することが持続可能な社会の実現にどのようにつながるかを考えるきっかけを生み出すことを目指した。さらに、衣服や身の回りのものを選択・使用する際に、「どのようにつくられたのか」「どのような素材が使われているのか」といった視点にも目を向けてもらうことを目指した。来場者同士がそれぞれの意見を共有する場を作ることで、普段の生活におけるものの選択について、新たな価値基準を考えるきっかけを生み出すことを目指した。
参加者との対話から生まれた意見や気づき
今回は紡績と持続可能な社会の在り方について、前述の3つの問いかけを通して来場者との対話を行うことを意識した。特に、「ガラ紡で紡いだ糸をどのようなものに使いたいか」という問いかけに対しては、年齢や興味関心の違いによってさまざまな意見が生まれた。参加者同士の意見を共有する中で、「そのような使い方もあるのか」と互いの考えに触れる場面も見られた。このことから、同じ糸であっても、個人の経験・関心によって異なる用途が想起されることが分かった。また、一つの正解を求めるのではなく、参加者同士が異なる考えを共有することで、糸の使い方について新たな視点を得る機会につながったと考えている。
また、「未来の糸づくりで大切にしたいこと」という問いかけでは、「衣類にはリサイクルしやすい素材を多く使用したほうが良いのではないか」「そのような素材から糸をつくることが大切なのではないか」といった意見が印象的であった。これは、他のブースで得た知識や体験を踏まえ、今回の企画のテーマと関連付けた意見であり、多様な分野の科学技術や社会課題を扱うサイエンスアゴラならではの対話につながったと感じた。
さらに、今回の企画では、普段は博物館で展示されている動体展示資料について、模型を実際に動かしながら参加者に解説することができた。資料の仕組みを目の前で見てもらいながら対話することで、単に過去の技術を紹介するだけでなく「なぜこのような仕組みが生まれたのか」「現在の技術と比べてどのような特徴があるのか」といった観点から、資料の持つ意義や可能性についても考えてもらうことができた。また、参加者の様々な反応や意見に触れることで、私たち自身も博物館資料を現在の社会や未来の技術について考えるための題材として活用することの可能性について、新たな気づきを得ることができた。
対話を通じて得られた未来へのヒントと今後の展望
今回の企画を通して私たちは、過去の技術を知ることが、これからのものづくりの在り方を考えるきっかけになり得ることを改めて感じた。現代では、衣服や身の回りの製品を完成した「もの」として目にすることが多いが、その背景にある素材や生産の過程を意識する機会は必ずしも多くない。だからこそ、ものがつくられる過程に目を向けることは、普段何気なく使っているものを別の視点から捉え直すことにつながると考えている。
また、今回の対話からは、未来のものづくりを考える際に、単に新しい技術や効率的な生産方法を追求するのではなく、素材の特性や資源の循環、使う人の視点など、さまざまな価値を踏まえて方法を選択することの重要性が見えてきた。技術を一つの基準で優劣づけるのではなく、それぞれの特徴や背景に目を向けることで、これから何を大切にしてものをつくるのかを問い直すことができると考えている。
さらに、今回の活動を通して、博物館資料は過去の技術を保存し、歴史を伝えるだけでなく、現在の社会や未来について考えるための題材にもなり得ることを実感した。過去の技術を現代の視点から捉え直すことで、現在当たり前となっているものづくりの方法を相対的に見つめ、新たな可能性を考えることができる。これは、博物館資料を未来への「問い」を生み出すものとして活用する可能性を示していると考える。
今後は、博物館資料を単に「昔の技術」として紹介するのではなく、そこに込められた工夫や知恵を現在の社会課題と結びつけ、未来について考えるきっかけとして活用していきたい。そのために、知識を一方的に伝えるのではなく、参加者自身の経験や考えを引き出し、それぞれの視点を持ち寄る対話の場を大切にしたい。過去の技術と現在の社会、そして未来のものづくりをつなぎ、対話を通して新たな価値や可能性を共に探究することを、今後の活動につなげていきたい。
当日の様子