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激論! 先端ICTによるイノベーションチャレンジ

■開催概要/Session Information

■登壇者/Presenters

■レポート/Session Report

最先端のICTを駆使したイノベーションで社会を変える!

「ICT(情報通信技術)の最先端の研究成果により、いかにイノベーション(新価値創造による変革)を起こし社会的課題を解決していくか」をテーマに、講演やパネルディスカッションを展開。イノベーションを起こしていくことの重要性と必要条件、さらには今後の社会の在り方に至るまで、さまざまな意見が交わされました。

講演には株式会社国際電気通信基礎技術研究所取締役の萩田紀博氏、カーネギーメロン大学特別教授のスチュアート・エヴァンズ氏(ビデオ講演)、カタルーニャ工科大学名誉教授のフランセス・ソール・パルラダ氏(ビデオ講演)、株式会社NTTドコモ執行役員の栄藤稔氏、株式会社アラヤ・ブレイン・イメージング代表取締役の金井良太氏、大阪府立大学大学院工学研究科教授の黄瀬浩一氏、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科准教授のカイ・クンツェ氏が登壇しました。

各界の専門家たちの意見から明らかになるイノベーションの必要条件

萩田氏は、イノベーションへの挑戦として、持続可能な「スタートアップ(新たなビジネスモデル)」を起こすにあたり、常に“アダプテーション(適応)”という要素が大切である、と主張しました。さらに、スタートアップにおける、「仮説からの発展」や「データの収集」、「経験から戦略・軌道修正をさせる」といった手法が、科学者の研究の手法と根底では同様であると解説。スタートアップを起こそうと考えている研究者に向けて「普段から『世の中にどういうインパクトを与えるのか』という明確なビジョンを持って研究してほしい」とビジョンの重要性を説きました。

レポート

シリコンバレーの多様な産業は、相互に関連し合って成り立っている」と話したエヴァンズ氏。その経済的な協調関係は、大企業を中心に、研究者、投資家、デザイナー、弁護士といったさまざまな人が関わって確立していることを紹介しました。また、このエコシステム(複数の企業がパートナーシップを組み、互いの技術や資本を生かしながら、社会全体を巻き込み、さまざまな枠組みを越えて共存共栄していく仕組み)を生き抜くためには「柔軟性」が必要であることを、ラクダ、ワニ、チーターといった動物の生態を例に挙げて解説しました。そして最後に、スタートアップに必要なものとして、「顧客ニーズに瞬時に応える対応力(Urgent)」、「突然の変化に対応する技術と独自性(Unique)」、「関わる人たちの信頼関係(Unified)」という「3U」を提唱しました。

パルラダ氏は、大学で「イノベーションプログラム」を実施。これまでの17年の間に、アメリカの大学や他の大学の成功例を参考に、スタートアップやスピンオフ(新技術の他分野への応用)の方法の教育に力を入れ、イノベーションを起こそうと考えている学生たちの意識改善を行ってきた、という経験を語りました。

「イノベーション=インベンション(技術的な発明)×インサイト(経済における知見・洞察)」を主張した栄藤氏。新しい技術に既存の技術を組み合わせることも大事であり、そしてそれをどうビジネス化するかを考えなければならない、と持論を展開。さらに、新しい組み合わせを見つけてビジネスに繋げるためには、社会に対する共鳴・共感が大事である、と話しました。また、イノベーションはテクノロジーだけを追求するのではなく、ビジネス化することで世の中に拡充させることができ、世界に大きなインパクトを与えることができる、と強く訴えました。

レポート

金井氏は専門である「人工意識」という切り口からイノベーションを語りました。脳の基礎研究から、その研究結果を世に広めるべく会社を立ち上げ、50年後に生まれるであろう脳産業の第一歩を踏み出したというこれまでの歩みを紹介。その上で、情報というものは産業化し、社会にインパクトを与えて広くインセンティブを与えるものにしていかなければならない、と話しました。そして、“知識が多い”人工知能ではなく、”本当の意味を理解する”人工意識を開発する、という大きな目標を語りました。

黄瀬氏とクンゼ氏は、自身の活動経験から、イノベーションの重要な3つのポイントとして、「コネクション(ヒューマンネットワーク)」、「ダイバーシティ(多様性)」、「オポチュニティ(研究や他の研究者とのコラボレーション)」を挙げました。

激論から生まれるイノベーションの在り方

講演の後、会場参加型のパネルディスカッションを実施。講演を行った5氏のほか、株式会社ロフトワーク代表取締役の林千晶氏が加わり、会場の参加者から寄せられた質問や意見に対し、熱い持論を展開し激論を交わしました。

レポート

「インターネット・オブ・シングス(IoT:世の中のありとあらゆるものをインターネットに接続すること)を実現するために、ICTを日本でどう広めていけばいいか?」という質問に対して、萩田氏は「昔から我々が付き合ってきたものがIoT化されると都合がいい、というのであれば、ICTはどんどん広がっていくと思います。それを促進させるものはプラットフォーム(ソフトウェアが動作するための基盤)。まずは、そのプラットフォームを、日本独自ではなく国際的に作る必要があります」と回答。クンゼ氏は「ICTを広めるには、コンピューターサイエンスに関わっている人だけでなく、一般の人々がプログラミングを学んで、人々が経験を共有することが大切だと思います」と語り、それこそがIoTが最終的な目的とする「人と人を繋ぐ」という役割だと述べました。黄瀬氏は「教育関係でICTをもっと利用してはどうかと思います。ただし、みんなが考えることを止めてしまうようになったら本末転倒。むしろ、人間によく考えさせるようなテクノロジーが出てくればいいんじゃないかな」と発言しました。

また、「創業者、経営者になる人が不足しているのでないか?」という質問には、金井氏の「経営者を増やすために、大学で『とにかく何かを作って、スタートアップをやれ』というようなポジションを作ってはどうか」という提案に、栄藤氏が「それはちょっと甘い」と反論。「そもそも日本にはスタートアップを促す能力を持っている人が少ない。一番難しいのは技術開発じゃなく、ビジネスモデルの発案と事業化へのステップなんです。それができる人物が欠けているのに、スタートアップが成功するとは思えない」と指摘しました。そんな栄藤氏の意見に対し、林氏が「スタートアップを主導する人物が少ないとしても、日本にはさまざまなベンチャーがあり、さまざまな成功のかたちがあるのでは」と、さらに反対意見を述べ、議論は白熱しました。

人と人の繋がりがイノベーションを起こす

ディスカッションの最後に、黄瀬氏は「今日参加させていただいて感じたのは、やはりヒューマンネットワークの重要性。企業や大学の枠を超えて何か面白いことができないか、と考えるような場がもっと増えればいい」と将来への展望を語りました。

さらに、国が掲げた再生可能エネルギー導入見込みについて触れ、太陽光発電、風力発電、地熱発電それぞれの長所と短所、低炭素社会への困難な道のり、「水素燃料」「CCS(二酸化炭素の回収と貯蔵)」といった新しい技術開発例の問題点を指摘しました。

中高生がグループで考える

江守、古賀両氏からのレクチャーの後、中高生たちは3班に分かれてのグループワークを実施。最初は「地球温暖化の影響は深刻だと思うか?」をテーマにディスカッションしました。

そして萩田氏が「いろんな立場の役割がそろわないとイノベーションは起きない。20~30年くらい時間をかけると(状況は)変わるので、今の20、30代の学生さんが『R&D&I(研究・開発・イノベーション)』を学んで、いろんな失敗をして教授になって、その下で育つ学生さんたちの時代になれば、日本はスタートアップだらけになるかもしれない」と将来への期待を述べて、シンポジウムを締めくくりました。

【レポーターからのひとこと】

これから日本が世界に対して発信力を強めていこうとする中で、イノベーションは必要不可欠なもの。今回参加して、それを生み出すために必要な要素や条件、さらに可能性のある分野が浮き彫りになったことで、実現可能な期待感が膨らむと同時に、アメリカなど他国の方法は、日本では順応しないのではないかとも感じられました。日本の将来において、ビジネスはどう発展していくべきか、ということを改めて考えさせられる良い機会となりました。(原田健)

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