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私たちが考える地球温暖化とエネルギー利用!

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■登壇者/Presenters

■レポート/Session Report

中高生と学ぶ地球温暖化の現状と問題点

人間活動によって排出される温室効果ガスが主な原因である地球温暖化について中高生と共に学び、近未来に迫る危機と温室効果ガスの排出削減やエネルギー利用のあり方について対話型ワークショップを通して考えました。

講演では、国立環境研究所気候変動リスク評価研究室長の江守正多氏が地球温暖化の科学的状況と世界の動向について話し、国立研究開発法人科学技術振興機構グリーンイノベーション担当研究監の古賀明嗣氏が日本のエネルギー事情について解説しました。

待ったなし!地球温暖化の実情とは?

江守氏はまず、「2050年9月の天気予報」の映像を紹介。9月にもかかわらず気温が35℃を超え、東京の真夏日は連続50日以上、最高気温は40.8℃を記録し、熱中症で死亡した人数は6500人超。京都の紅葉の見ごろはクリスマスごろとなり、台風は大規模化するといった予測を見せ、このまま何の対策も講じず2050年を迎えた場合の深刻性を訴えました。

レポート

2050年という遠くない未来で地球温暖化の問題が深刻になるであろうことを踏まえて、江守氏は中高生に向けて温暖化の仕組みについて詳しく解説。太陽からのエネルギーや地球から宇宙へ放出する赤外線の存在を伝え、温室効果がなかった場合は地球の平均温度は-19℃、現在は温室効果があるため14℃、温室効果ガスの影響が強まると14℃以上になると説明。さらに、過去150年間計測したグラフから、温室効果ガス濃度と世界平均気温・海面水位が20世紀に急激に上昇している、と明言しました。

現実問題として地球の気温が上昇していることや、100年後の気温予測にも言及。人類が温室効果ガス削減の対策を全く講じなかった場合と、現段階から出来うる限り対策を講じた場合では、世界平均で4℃も違い、また各地で上昇率が違うこと、仮に気温上昇を止められたても海面上昇はすぐには止まらないことを解説しました。さらに海面上昇、洪水、台風、熱波、食料不足、水不足、生態系の損失などと温暖化による主なリスクも紹介しました。

解決への答えは一つでない

江守氏は、温暖化の深刻度はものの見方で変わってくることに言及。影響の受けにくい「世界経済」や「大規模な特異現象」に対し、「固有の生態系や文化」や「極端な気象現象」は影響を受けやすく、既に変化が起こっていると指摘しました。

また世界では「産業化以前から世界平均気温の上昇を2℃以内に収める」という目標を掲げているが、現状で既に約1℃の上昇が進み、残り1℃の猶予しかないこと、そしてその目標は達成がかなり難しいものであり、目標達成するための各国の温室効果ガス削減の対策目標の足並みが揃っていないことも報告。一方で、「気候変動の悪影響と好影響」「温暖化対策の悪影響と好影響」についても語りました。

加えて、「今まで温室効果ガスを排出してきたのは先進国と新興国」で「最も深刻な被害を受けるのは貧しい途上国や弱い立場の人々である」、また「気候の問題は著しい不正義、不公正の問題であるという認識で社会運動が起きている」といった各国でさまざまな意見があることを紹介、その価値判断の難しさにも触れました。最後に温暖化問題の解決の鍵として、「高効率火力」「原子力」「革新的技術」「再生可能エネルギー」「省エネ」などを挙げた上で、それぞれのリスクにも言及。そして、「世の中にはいろいろな考え方があって、どちらが間違っていて、どちらが正しいというものではない。これからもっと議論していかなくてはならない問題だ」と締めくくりました。

CO₂削減目標の難しさ

続いてスピーチした古賀氏は、現状の日本のエネルギーについて92%が化石燃料を使っており、COP21に日本が提出した約束草案での二酸化炭素の26%減は3ヶ月間全くエネルギー活動しないことと同義であること、また再生可能エネルギーがコスト高であることなどを語り、二酸化炭素の排出をゼロもしくはマイナスにすることがどれだけ難しいことであるかを強調しました。

レポート

さらに、国が掲げた再生可能エネルギー導入見込みについて触れ、太陽光発電、風力発電、地熱発電それぞれの長所と短所、低炭素社会への困難な道のり、「水素燃料」「CCS(二酸化炭素の回収と貯蔵)」といった新しい技術開発例の問題点を指摘しました。

中高生がグループで考える

江守、古賀両氏からのレクチャーの後、中高生たちは3班に分かれてのグループワークを実施。最初は「地球温暖化の影響は深刻だと思うか?」をテーマにディスカッションしました。

A班からは「現段階ではそんなに問題ではないが、孫の代になると深刻になるのではないか」との意見が出されました。B班では「とても深刻である』という人が7人、「あまり深刻ではない』という人が1人でしたが、「深刻だと考えた人からは『深刻だと思わないのは人類の甘えなのでは』といった意見が出て、深刻でないと考えた人からは『10万年単位の地球の(気温変化の)サイクルから見ると、どうしようもないのでは』との意見があった」とのこと。一方、C班は全員一致で「とても深刻である」という結論で、温暖化は人間だけでなく生態系の破壊に繋がり、深刻だと言わざるを得ないと考えたといいます。

中高生も「国際合意」に厳しい見方

「地球温暖化を止める対策に世界は合意すべきか?」「二酸化炭素排出がほぼゼロの世界は今世紀中に実現すると思うか?」というテーマについて、国や人によって立場や価値観が違うこと、世界全体が足並みを揃えないと効果がないことなどについて議論を深めました。「人口が増加し、エネルギー消費が増えていく中での二酸化炭素排出ゼロは現実的に難しいのではないか」とA班。B班は「国連の約束には強制力がないし、それぞれの国の問題があるため、合意できなくても仕方がない。二酸化炭素の排出をゼロにするのは、今の日本のエネルギー事情を考えると現実的には無理なのでは」。C班も「国によって事情が違うため合意できなくても仕方がない。膨大なコストがかかるため、排出ゼロは実現できないだろう」と、いずれも中高生は悲観的な見方をしました。

最後に江守氏は「私の意見としては、温暖化は深刻であり、世界は温暖化対策に合意すべき。また、二酸化炭素排出ゼロの世界は今世紀中に実現するとは言い難いです。でも、30年前はインターネットも、スマホも、デジカメもなかった。そのくらい30年という時間は大きく世界を変える。エネルギーについても新しい技術が生まれて転換期がくる可能性がある。そのような発想は、大人の固い頭より皆さんのような柔らかい頭からの方が生まれやすいと思うので、ぜひ期待したいです。今回のこの議論を、この問題を考えるきっかけにしてください」と呼び掛けて閉会しました。

【レポーターからのひとこと】

かねて叫ばれていた地球温暖化問題について、改めて危機的な状況であることを知り、今後の世界の動向や人として(生活)のあり方までも考えさせられました。しかし、グループワークを促す項目としては、もう少し“温暖化の良い影響”についての説明があると中高生たちの議論も深まり、もっと有意義なものになる気がしました。(原田健)

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