SCIENCE AGORA

オープンサイエンス革命
~オンラインコラボレーションによる研究推進の可能性~

■開催概要/Session Information

■登壇者/Presenters

■レポート/Session Report

市民とのコラボレーションでつくる「オープンサイエンス」!

このトークイベントでは5人の発表者が、「オンラインコラボレーション」という新しい研究スタイルについて、現在の取り組みやそれぞれの分野における海外の事例、成果を上げるための工夫などについて語りました。

最初にトークイベントの主催者で学術向けクラウドファンディングサイト「academist」の設立者でもある柴藤亮介氏から、「一般市民に対して先端科学の情報を開示し、それを共有する『オープンサイエンス』という切り口から、これからの科学の考え方がどのように変わっていくかを、このトークセッションを通して考えたい」と、趣旨説明がありました。

クラウドファンディングとは自分が気に入ったコンテンツやプロダクトに少額投資を行って支援する仕組みで、academistは科学者が研究したいと思っているテーマの資金集めを支援するサイトです。

今は以前と違って、研究者に予算がなかなか回ってこない状況があります。それを打開するために、柴藤氏は「国から研究費を調達するのではなく、研究テーマに賛同した個人から資金を集めてくるという新たな仕組みを確立させたいと思っています。これも、オープンサイエンスの形態の一つと考えています」と語りました。

レポート

クマムシやアリ、生物学分野でのコラボ提案

最初の発表は、“クマムシ博士”こと慶應義塾大学先端生命科学研究所特任講師、堀川大樹氏による「クマムシ研究コラボレーションへの道」です。

レポート

クマムシは基本的には水生生物なので、水分がなくなるとカラカラの状態になってしまいます。ところが、再び水分を与えると元の体に戻り、何事もなかったかのように動き始めます。乾燥しても死なないという不思議なメカニズムが解明されれば、人間の医学にも役立つ発見があるかもしれません。

そんなクマムシの研究には、大量のクマムシを育てて実験に利用しなければなりません。その点について堀川氏は、非研究者とコラボレーションができないかと考えています。「最近は小中学生からもクマムシに関する質問が増え、注目度が上がっています。そこで、理科教育にクマムシの飼育観察を取り入れてもらえれば、学校からクマムシを提供してもらい研究に利用することができます」と、アイデアを披露しました。

さらに堀川氏は「幻のクマムシと呼ばれる『オンセンクマムシ』の探索を、クラウドファンディングによって実現したい。支援者と一緒にオンセンクマムシを探すツアーなどを企画すれば、研究自体が盛り上がるのではないか」と提案しました。

2番目の発表は同じく生物学分野から、京都大学農学研究科昆虫生態学研究室博士課程の末広亘氏による、「外来種研究によるオンラインコラボレーションの可能性」です。

末広氏はアリの外来種について研究しています。アリは自然界の中で多様な役割を果たしているため、ひとたび侵略的外来種が入ってくると在来種の環境が荒らされて、生物や植物のバランスが崩れてしまいます。それゆえに、「どの在来種が影響を受けるかを調査することは、環境への影響を予測する上で非常に重要なこと」だと言います。

ところが、アリはとても小さくて種類も多いので、研究者個人が広範囲で調査をすることは困難。そこで、アメリカの研究者は「SCHOOL OF ANTS」というプロジェクトを立ち上げ、全米の小中学校の授業の中で身近にいるアリを採集して送ってもらうように呼び掛けました。その結果、1年半の間に約500地点で調査が行われ、107種類の在来種と7種類の外来種が見つかったそうです。

このようなプロジェクトを日本でも立ち上げたいと末広氏は願っています。「なぜなら、外来種はほとんどを人間が持ち込んでいるので、人が住んでいるところに集中しており、オンラインコラボレーションでの調査に向いているのです。また、オンラインで情報を共有し、同一手法で同時に調査できることも大きなメリットです」と説明しました。

宇宙物理学分野でのクラウドファンディング利用

宇宙物理学の分野での事例もあります。京都大学白眉センター理学研究科宇宙物理学教室特定准教授の榎戸輝揚氏と理化学研究所基礎科学特別研究員の湯浅孝行氏は共同で、雷の発生メカニズムの解明を目指す研究「雷雲ガンマ線プロジェクト」を進めています。雷雲中の電子の加速により発生したガンマ線を地上で検出する装置を大量に製作して観測や解析をしたいと思ったのですが、その費用を国からの研究費で獲得することができませんでした。そこで、湯浅氏の提案でacademistを利用して資金集めをしました。2015年の8月~10月の2カ月間で目標額の100万円を越える160万円の資金を153人の支援者から集めることができました。

レポート

榎戸氏は「自分たちの研究テーマを広く理解してもらうためにさまざまな人たちとコラボレーションでき、何よりも支援者からいろいろとメッセージをいただくことが励みになりました」と振り返りました。

academistを利用することで、資金調達だけでなく、実際に装置を置かせてもらえる学校や個人宅、サポートを申し出てくれる研究者などの支援も集まりました。榎戸氏は「この仕組みを利用すれば、市民サポーターが参加できるような、非常に新しい形でのオープンサイエンスが実現できると思います。そのためには、テーマを丁寧に選定し適切な規模を考慮していくことが重要です」と力説します。

一方、湯浅氏は今後この研究自体をオープンサイエンスで行っていくという計画について紹介しました。研究では、さまざまな場所に設置されたガンマ線検出装置からのデータを解析する必要があります。湯浅氏は「その作業は、少人数の研究者だけではとても手が足りません。そのため、2015年度末からの実現を目指して、インターネットから誰もがデータ解析に参加できるプロジェクトを立ち上げようと思っています」と語りました。

参加者はWebブラウザ上で24時間、装置に降り注がれるガンマ線の量をビジュアル化された画面で眺めることができます。その際、何か急激な変化が現れたら参加者自身がマーキングをしてサーバにデータを記録させます。「そうやって、たくさんの人たちによって記録されたガンマ線の変化を研究者が分析することで、いつ、どんな状況で、どのような変化があったのかを知ることができます」と計画の意図を説明しました。

オープンで進化してきた情報科学分野

最後の発表は、情報通信研究機構サイバー攻撃対策総合研究センター有期技術員で北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士課程の湯村翼氏による「情報科学とオープンサイエンス」です。

レポート

情報科学の分野では、仕事や趣味でプログラミングを書いているソフトウェアエンジニアがたくさんいて、その人たちが自分で作ったソースコードを他の人にも使ってもらおうとか、他人が書いたコードの続きを引き継ぐといった活動が日常的に行われています。そういったコラボレーションを推進するサービスの草分けが「GitHub(ギットハブ)」というWebサイトで、その登場によってオープンソースの開発が盛んになりました。

湯村氏は「情報科学とオープンサイエンスはとても相性がいい。最近はパソコンも高性能のものが安く買えるようになり、ノートパソコンで十分に開発が行えるようになってきました。さらにクラウドサービスで、高性能なパソコンのリソースを安価に使うことができます」と語ります。

情報科学では、既に過去に作られたプログラムを誰かがもう一度作り直すようなことを避けようとする文化があります。湯村氏は「そのために研究成果をGitHubで公開し、みんなで情報科学を後戻りさせることなく推進していこうとしたことが、オープンコラボレーションの発展につながっていったのです」と解説しました。

【レポーターからのひとこと】

これまでは研究者のコミュニティに参加する機会があるたびに、閉鎖的な世界であると感じることが多くありました。それがオープンサイエンスの浸透によって、開かれたものになりそうな予感がしました。理系離れを防ぐには、何より今いる研究者がオープンな考え方を持つようになって欲しいと思います。(元田光一)

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