SCIENCE AGORA

みんなで2020年をソウゾウしよう!

■開催概要/Session Information

■登壇者/Presenters

■レポート/Session Report

現代アートとのコラボがサイエンスを救う!

科学と芸術を相補的に組み合わせた取り組みを紹介し、科学の未来のビジョンを提唱。さらに、現代アートとテクノロジーを使った参加型ワークショップを通して、来場者の思考とソウゾウ(想像&創造)を誘導しました。

講演では、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科准教授の駒井章治氏と、イタリア・トレント大学科学社会学教授のマッシミアーノ・ブッチ氏が登壇しました。

危機状況にあるサイエンスを救うカギ

駒井氏は、トップダウン型で開発・研究を行っている現在の科学の在り方では、新しい発想が生み出されにくいという欠点を指摘した上で、科学の未来に強い危機感を覚えていると主張。そんな現状を打破するためには、アートの持つ自由な発想がカンフル剤となりえる、と提唱しました。

サイバー化に伴い価値観が多様化し、情報が飛び交う現代社会においては、“多くの知識を持つ”ことよりも“知識をベースに考えて判断する”ことが必要であると明言し、そのためには「面白い」と思える状況が不可欠であると話しました。

元々は「面白い」と思うことをベースに研究が始まっていたものが、近現代に近づくにつれて、「ロジックが分からないと理解できない科学」と「みんなが興味があっても(実際的には)役には立たないアート」という乖離が起こっている、と話し、それを近づけることで、「科学は面白い。やってみよう」というような内発的動機付けを養うことが大切である、と同シンポジウムの趣旨を伝えました。

レポート

一方、ブッチ氏は、いかにサイエンスを楽しく伝えるかという“サイエンスコミュニケーションの在り方”として科学と芸術の共通点である“ビジュアル化”について解説。「ビジュアル化と聞くと、“アート”というふうに思われるかもしれませんが、科学にとっても大変重要なものでした」と語りました。例えば、ガリレオの月の観察画やDNAの二重螺旋構造のイラストなどを挙げ、ビジュアル化によって研究の理解度が変わるという効果に言及。一見、隔たりがあると思われがちなアートとサイエンスの密接な繋がりを指摘しました。

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さらに、絶滅動物のドードーのイラストから端を発し、そのイラストを博物館で見たルイス・キャロルが「不思議の国のアリス」にドードーを登場させたというエピソードを披露して、ビジュアル化が文学にも影響を及ぼしたことを紹介。また、「バタフライ効果」の研究発表時は、その象徴にカモメを使っていたがチョウに置き換えたことで世間に浸透したこと、またサルから人間へと人類の進化の過程を描いたイラストは研究的には実は間違っているが一般化してしまっていること、さらにフランケンシュタインは原作では科学者であるにもかかわらずハリウッド映画の影響で“恐ろしいもの”の代名詞となったことなどを話し、ビジュアル化の持つ大きな影響力について言及しました。

レポート

科学とアートの分離に対して

講演後に行われたディスカッションでは、2氏に加え、ゲストとしてSONYコンピュータサイエンス研究所の竹内雄一郎氏と3名の東京藝術大学の東京藝大OGの油画の院生、アーティストや美術教員の育成に携わる方が参加しました。

竹内氏は「エンジニア組とデザイン組の距離は、どんどん近づいていると感じています」とビジネスシーンにおける変遷の予兆を察知。「エンジニアは機能のことだけ考えていればいいといったような“関心の分離”という時代から、エンジニア側にもデザインの素養が求められたり、デザイナー側にも技術的な素養が求められたり、最低限、コラボレーションして協力できるような“共通の言語”くらいは身に付けておくことが求められる時代に変化してきたと感じています」と語りました。

駒井氏は「美術的な領域は、どの分野にも関わってくることであるにもかかわらず、乖離してしまった原因は、副教科教育の軽視にあると思う」と指摘。これに対し、藝大OGの一人が「変化に対して興味を覚え、発見の驚きの連続が学問へと繋がっていくはずなのに、いつしか入試に備えた学問というつまらないものになっていく。そういう社会の構造が副教科軽視の原因なのでは」と述べました。

一方、ブッチ氏は「イタリアでも、『音楽家にならなければ音楽はやらなくてもいい』といったような考えで、技術と芸術の分離が起きてしまっている」とイタリアの現状を披歴。また、「一般の人が科学を理解するということが重要だと思う。それは技術的に有用性があるからという理由だけではなく、文化として、アートとして理解する必要があるからだ」と持論を展開しました。

科学とアートの接近が生む可能性

このほか、藝大OGはアーティストという視点から「概念的なものをかたちにして表現してみようと思ったきっかけは、子供のころから自分が自分として生きている実感がなくなる瞬間があって、『それは何なのだろう?』と考えたことが始まりです。哲学的な考えから作品を発想しています」と発想の源を話し、「“見えないものが見える”ということがめちゃくちゃ面白いことだと思うのです」と表現する喜びを語りました。

その意見に駒井氏も「それはとても大事なこと。『面白い!』と思うことをできるだけたくさんの人と共有することができれば、もっと面白くなると思う」と共感。さらに、「見えないものを具現化したり、感じられるようにするという行為は、サイエンスと同じ。その行為をすごく自由な発想でされている」と感心する一幕もありました。

参加者たちは「実測とイメージに乖離があるものを、アートを使ってなんとかできるかもしれないと思った」「科学の可能性の広がりを感じられ、来てよかった」とそれぞれ感想を明かし、アートと科学の新たな可能性を感じた様子。

最後に駒井氏は「このディスカッションを踏まえて、今日ここでシェアした考えや気持ちを、家に帰って少しでも考えてみていただければ」とサイエンスの未来の在り方について一考することを期待して、ディスカッションを終えました。

自由な発想で「サイエンス×アート」を体感!

ディスカッションの後、サイエンスとアートのコラボを体感するために、ワークショップを実施。「見えないものが見えるメガネを作ろう」をテーマに、見たいもの、見えたらいいなと思うものを考え、それをデザインしてメガネのレンズ部分に表現。そのデザインをパソコンに取り込み、レーザーカッターを使って一枚の板からメガネを作成しました。

参加者は、「幽霊が見えるメガネ」や「スッピンが見えるメガネ」「昨夜見た夢が見られるメガネ」など、自由な発想を駆使してメガネ作りに挑戦。凝り固まった思考をほぐし独自のアイデアをひねり出そうと大人も真剣な表情で参加しました。

デザイン化にはゲストの藝大OGのアドバイスを受けながらチャレンジ。レーザーカッターの工程では、板が切り出されていく様子を参加者は興味深げに見つめました。見事にメガネが完成すると、出来上がったばかりのメガネを装着しながら、自分の考えたものが具現化するという喜びに浸りつつ、「科学は面白い。やってみよう」という内発的動機づけを体感していました。

【レポーターからのひとこと】

「科学」と聞くと、敷居が高く日常と隔たりのあるものに感じがちだが、実は最も身近で、日常にあふれたものなのだと実感。アーティスティックな発想を具現化するための過程こそが「科学」であり、「面白い!」と感じることこそが「科学」の発展に必要不可欠なもの。その考え方はこれからの教育に必要なのではないだろうかと考えさせられました。また、講演の内容をすぐさま体感できるという試みは、とても有意義で有効だと感じました。(原田健)

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