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資料4

開発課題名「新規近赤外蛍光団の開発と実用的蛍光プローブの創製」

最先端研究基盤領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成27年12月〜平成31年3月

チームリーダー :  花岡 健二郎【東京大学 大学院薬学系研究科 准教授】
中核機関 :  東京大学
参画機関 :  埼玉大学
T.開発の概要
 本課題では、新規な近赤外蛍光団を開発することで、生命科学や分析化学など幅広い基礎科学研究において有用となる近赤外蛍光試薬(蛍光プローブ)を提供することを目指す。650 nm から900 nm の近赤外領域の光は、低い自家蛍光や高い組織透過性など多くの利点があり、また、マルチカラーイメージングにおける新たなカラーウィンドウとしても期待されている。本課題において開発する近赤外蛍光団は、これまでに汎用されてきたシアニン色素と比較しても多くの優位性があり、生命科学分野において大きな波及効果が期待される。
U.開発項目
(1)新規近赤外蛍光団の合成法の確立および光学特性の精査
 非対称Si-ローダミン蛍光団の合成ルートの最適化に成功した。本合成ルートを用いることで、吸収波長が500〜675 nm、蛍光波長が623〜698 nmの様々な吸収・蛍光波長を持つ新規蛍光性誘導体を20個以上合成し、開発目標を達成した。
(2)近赤外レシオ型pH蛍光プローブの開発
 6つの異なるpH領域で感受性を持つ蛍光プローブを合成した。特に、細胞内酸性オルガネラの測定に適した新規近赤外レシオ型pH蛍光プローブの開発に成功した。開発した蛍光プローブにより、生きた細胞や臓器のpHをリアルタイムで観察した。
(3)近赤外カルシウム蛍光プローブの実用化
 細胞内への導入効率を高め、リソソーム局在性を無くし、細胞質に滞留する新たな市販化レベルの近赤外蛍光Ca2+プローブを開発した。本プロ−ブは、高いS/N比で、細胞内のCa2+濃度の変動を捉えることができた。
(4)近赤外消光団の実用化
 近赤外領域に対応した実用的な消光団の開発に初めて成功し、試薬メーカーによる市販化を検討している。また、当初目標に掲げていなかった「タグペプチドと蛍光プローブペアの開発」、「activatableな光音響プローブの開発」、「薬物代謝酵素の酵素活性検出蛍光プローブの開発」に成功するなど、開発目標を大きく上回る成果をあげた。。
(5)赤色カルシウム蛍光プローブの実用化
 先行プロジェクトで開発した赤色カルシウム蛍光プローブの構造改良を行い、細胞内導入効率を向上させたものを、特許出願するとともに市販化した。生物応用として、ラット脳スライス切片の神経細胞活動に伴う細胞内Ca2+濃度変動のイメージングなどに成功した。
(6)その他
 葉酸受容体の高発現細胞を可視化する、近赤外蛍光プローブの開発に成功した。生体深部の観察が可能で、葉酸受容体を高発現しているがん細胞を検出できる実用的な蛍光試薬として、臨床医療、生命科学研究への応用が期待される。
V.評 価
 本課題は、高い組織透過性や低い自家蛍光などを持つ近赤外蛍光プローブを創出して、生命科学研究に貢献する新たな蛍光イメージング技術を開発するものである。
 全ての開発目標を達成し、独創性・新規性の高い非対称Si-ローダミン蛍光団の合成ルートの最適化を突破口として、レシオ型pH 蛍光プローブなど、生命科学への応用において有用性の高い蛍光プローブを多数開発した。さらに、がん細胞を検出できる蛍光プローブや、肝臓での医薬品の代謝をモニタリングする蛍光プローブなど有用なバイオセンサーを開発しており、当初の目標を越える、ニーズに即した研究開発を行っていることも高く評価できる。
 戦略的な知的財産の形成もなされており、一部の成果は市販されている上に、論文発表など積極的な情報発信により、多くの共同研究者とともに応用展開されている。
 本開発は当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する。 [S]