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資料4

開発課題名「生体分子ムービー観察を実現する高速イオン伝導顕微鏡の開発」

(平成28年度採択:最先端研究基盤領域 要素技術タイプ)

チームリーダー :  渡邉 信嗣【金沢大学 理工研究域バイオAFM先端研究センター 助教】
中核機関 :  金沢大学
参画機関 : 
T.開発の概要
 生体分子は自らの構造を変化しながら、他の生体分子と相互作用することで機能を発現しており、構造と動きを直接的にとらえるムービー観察技術が強く求められている。本課題では、独自に考案した技術とイオン伝導顕微鏡を融合した新しい走査プローブ顕微鏡の基盤技術を開発する。これにより、液中の生細胞膜ナノ構造のムービー観察を、非接触状態において、高解像度で高速、非標識に行うことができ、生命科学研究における革新的な研究ツールとなることが期待される。
U.中間評価における評価項目
(1)高性能HS-IcMプローブの開発
 ナノピペットの作製条件について検討し、透過型電子顕微鏡による高解像度観察により、プローブ先端外径、ナノポア径を再現性よく得られることを確認した。また電解液をプローブ内部に充填し、安定した電気的コンタクトを形成する技術を開発した。プローブを試料表面に近接させた際のイオン電流変化を測定し、電流ノイズが目標値以下であることを確認した。
(2)高速高安定HS-IcM計測手法の確立
 高速ホッピングモードを実現するための高速スキャナを新たに設計し、90 kHz以上の変調周波数を実現した。高速ACモードのアルゴリズムをカスタマイズ可能なHS-IcMコントローラを開発した。
(3)装置性能の評価(細線ナノ構造体で評価)
 100 nmの凹凸を有する試料を25 μm×25 μm程度の走査範囲で8.5秒/フレーム、100×100ピクセルの条件でイメージングすることができた。また、また数10 nm程度の凹凸構造のある、清浄でないガラス表面試料を2 μm×2 μm程度の走査範囲で3.5秒/フレーム、100×100ピクセルの条件でイメージングすることができた。空間分解能については、1.5 μm×1.5 μm程度の走査範囲で9秒/フレーム、100×100ピクセルの条件でアクチン繊維をイメージングした結果、25 nm以下の線幅が得られた。
V.評 価
 本課題は、従来の高速AFMでは観測が難しい液中の生物試料を、非接触状態において、長時間安定で簡便、高解像度にムービー観察できる高速イオン伝導顕微鏡技術の開発である。
 プローブの作製や高速スキャナなど基盤技術の開発は順調で、中間目標を達成している。今後は、時間分解能については挑戦的ではあるが当初の目標を上回る0.1秒/フレームレベルの高速化を目指すとともに、早期に生物試料の観察にも展開し、用途拡大に向けた探索活動の推進を図りながら、開発を着実に推進すべきである。[A]