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資料4

開発課題名「小型・安価・普及型高分子膜厚測定装置の開発」

最先端研究基盤領域 機器開発タイプ

開発実施期間 平成25年10月〜平成29年3月

チームリーダー :  田中 敬二【九州大学 大学院工学研究院 教授】
サブリーダー :  岩倉 宗弘【九州計測器株式会社 技術部 部長】
中核機関 :  九州大学
参画機関 :  九州計測器株式会社
T.開発の概要
 1 nmから100 μm厚みの有機・高分子薄膜の厚さと断面密度分布の変化をミリ秒の時間分解能でリアルタイム計測できる、ポータブルな環境制御型薄膜解析装置を開発する。ナノ・マクロの同時計測、かつ、種々の環境下での時分割計測を実現することで、グリーン分野における材料開発とプロセス制御、例えば、エネルギーデバイス界面反応と物質移動制御への貢献が期待できる。また、細胞膜と内部への反応伝播など、バイオ分野の挙動制御への貢献も期待できる。
U.開発項目
(1)二次試作機
 光学系については目標とした試料膜厚:1 nm〜100 μm、深さ分解能:0.1 nm、計測時間:10 m秒を達成。駆動・制御系も角度範囲0〜85°と当初目標を上回った。装置は一体型を計画したが利便性を考慮し、光学系、制御系、アンプの3要素に分解、総重量19 kgと目標を達成。耐圧性も水素ガス0.1 MPaで確認。耐食性は水溶液、有機溶媒、ガスで漏洩、浸食がないことを確認した。製造原価も当初目標を達成出来る見込みである。
(2)測定制御用ソフトウェア
 主な機能は、測定角度範囲やレーザー光源の回転速度といった測定条件の設定、取得したデータをテキストファイル形式で記録する測定・記録(ファイル化)である。目標とした計測時間10 m秒以内に対して、データ取り込み100 Hz以内で可能とした。
(3)解析ソフトウェア
 主な機能は、薄膜試料の各レイヤーにおける膜厚、屈折率、消衰係数の推定である。計測プログラムで取得した実測データ波形と、ユーザーが予め設定した薄膜パラメータの初期値と許容値から導いたシミュレーション波形を比較し、最小二乗法により誤差χが最小となるときのパラメータ値から膜厚や屈折率の近似値を得ている。また、各レイヤー間にある界面についても、任意の補正関数を導入することを可能としており、目標とした膜厚:1 nm 〜 100 μm (単層膜)、膜厚の10分の1程度の深さ分解能を達成した。
V.評 価
 本課題は、可視光を高分子膜に入射させた際の反射率を測定することで、高分子膜の厚さがナノからマクロに発展する過程をミリ秒オーダーで追跡できるポータブル装置の開発である。光学反射率変化の角度依存法性を高精度に再現性良く測定するためにゴニオの精度や測定データの自動解析法に特に注力されている。その結果、製品化レベルにまで達し多彩な応用が低価格の装置で可能となった。エリプソメトリー、SPR、中性子散乱法などの競合する分析装置が知られるが、本開発装置は簡便で現場で使え、低価格などの点で優れている。今後は、研究現場やものづくり現場など多方面での応用展開を進めつつ、ユーザーへの普及や市場の拡大を期待したい。
 本開発は、当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する。 [A]