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資料4

開発課題名「原子分解能の元素・状態分析用 X線STM開発」

最先端研究基盤領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成25年10月〜平成29年3月

チームリーダー :  齋藤 彰【大阪大学 大学院工学研究科 精密科学・応用物理学専攻 准教授】
中核機関 :  大阪大学
T.開発の概要
 X線による内殻励起を利用し、原子分解能で元素・化学状態を分析できるSTMを開発する。本チームリーダーがSPring-8で蓄積してきた「放射光STM」の技術・ノウハウを元に、新たな集光光源を組み合わせ、分析能力を飛躍的に拡張する。放射光施設を利用しなくても、実験室系でも原子分解能の化学分析ができる「X線STM」を標準化するとともに、分析のみならず、元素選択的な局所反応制御とその計測も可能にすることを目指す。
U.開発項目
(1)元素分析STMの確立
 実験室で管球X線を試料に照射し、構成原子が識別できる空間分解能のもとで、元素に対する特性X線の吸収端を挟んだエネルギー照射における、探針電流の差分に基づく元素コントラスト像の取得に成功した。
(2)微小X線照射(軸合わせ)システム確立
 面光源からのX線を平行光に変換し、ゾーンプレートで絞って試料に照射する光学系を構築した。ビーム径の正確な測定には至らなかったが、試料および探針に照射した微小X線の微動による蛍光スペクトルの変化を観測した。
(3)放射光STMの比較による元素コントラスト原理の確立
 信号電流の周波数成分を評価した結果、元素コントラストにはバリアハイトイメージの効果が含まれると示唆されることがわかった。
(4)普及に向けた放射光STMに対する優位性(実験室系)実証
 放射光の利用にはマシンタイムの制約が大きいのに対して、実験室でX線STMの評価が可能となることにより、豊富な実験時間と自由度の向上による効果が期待できる。
V.評 価
 本開発は、原子レベル分解能をもつ元素・状態分析用X線STM実験において、従来用いられてきた放射光X線源に代わり、汎用X線発生装置を用いて大学等の実験室でもX線STM実験が行えるようにするシステム構築を目指すものである。
 技術的に困難な課題が多い中で検討を重ね、一定の条件下ではあるが元素コントラストを確認することができた。しかし、原子分解能の元素・状態分析という点では十分達成されたとは言えず、測定対象の汎用性や安定性など、解決すべき課題も多い。反応制御への応用も含め、今後の継続的な開発による性能の向上を期待したい。
 本開発は、当初の開発目標を概ね達成したが、本事業の趣旨に相応しい成果は得られなかったと評価する。[B]