資料4

開発課題名「超広帯域コヒーレント赤外分光技術の開発」

最先端研究基盤領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成24年10月〜平成28年3月

チームリーダー :  藤 貴夫【自然科学研究機構 分子科学研究所 准教授】
サブリーダー :  三村 榮紀【ファイバーラボ(株) 代表取締役社長】
中核機関 :  自然科学研究機構
参画機関 :  ファイバーラボ(株)
T.開発の概要
 高効率でかつ広帯域な波長変換技術と高繰り返し赤外フェムト秒ファイバーレーザーを組み合わせることによって、テラヘルツから近赤外領域までコヒーレントな赤外光を発生させ、それを光源とした新しいコンセプトの分光システムを構築する。分子振動に敏感な赤外スペクトルをこれまでにないほど高速に取得できるようになり、気体を含めたあらゆる物質の詳細な分析から医療など幅広い分野への応用が期待される。
U.開発項目
(1)ツリウムファイバー増幅器の構築
 フッ化物ガラスを材質としたダブルクラッドファイバーを用いて、チャープパルス増幅システムを開発した。パルス圧縮前の出力として6.9 Wが得られた。パルス圧縮により超短パルスが得られたが、出力エネルギーは目標を達成しなかった。
(2)再生増幅器の構築
 ファイバー増幅器の出力不足を受けて、固体結晶であるツリウム添加イットリウムアルミネート結晶をレーザー媒質とした再生増幅器の製作を行った。繰り返し周波数250 Hzにおいて、2 mJ程度のパルス出力が得られた。平均出力の最大値は1 W程度であった。
(3)ファイバーレーザーを基本とした赤外分光装置の構築
 上記(2)の再生増幅器からの出力をガラスファイバーに入射し、ファイバーにおける非線形効果によって、中赤外光の発生を試みた。0.1 sの計測時間、2 cm-1程度の分解能で、中赤外光スペクトルの測定に成功した。ファイバー媒質の吸収によって、1000 cm-1より低い周波数の光は得られず、当初の目標は達成できなかった。
V.評 価
 本課題は、非線形光学効果を利用して、コヒーレントな超短パルス光を用いた超広帯域の赤外分光用光源を実現することにあり、応用範囲が広い赤外分光技術として期待される。新しいコンセプトの分光システムの原理は、光源として高価で大型なチタンサファイアレーザーを用いて確認することに成功した。さらに、開発目標である安価で小型化が可能なツリウムファイバーに置き換えたところ、当初想定していたツリウムファイバー増幅器の出力エネルギーが不足したため、サイズやコストがほとんど変わらないツリウム固体増幅器を採用した。しかしながら、ファイバーでの波長変換により、実用にはほぼ支障のない帯域のコヒーレント中赤外光を発生できたものの、目標とするテラヘルツに及ぶ超広帯域は得られなかった。
 本開発は、当初の開発目標を概ね達成したが、本事業の趣旨に相応しい成果は得られなかったと評価する[B]。