資料4

開発課題名「燃料電池内の水生成・移動現象のNMR 計測技術の開発」

グリーンイノベーション領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成24年10月〜平成27年3月

チームリーダー :  小川 邦康【慶應義塾大学 理工学部 准教授】
サブリーダー :  拝師 智之【(株)エム・アール・テクノロジー 代表取締役】
中核機関 :  慶應義塾大学
参画機関 :  (株)エム・アール・テクノロジー
T.開発の概要
 燃料電池の触媒表面から生成する水がガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)を抜け、ガス流路を通って排出されるまでの水の動的挙動を計測する技術を開発する。実寸法に近い燃料電池内に小型NMR コイルを挿入し、発電電流分布の計測から生成水の空間分布を求め、発電時の高分子膜内の含水量、GDL表面およびガス流路内を通り抜ける水を計測し、3次元的な水移動を把握する。水移動の可視化がGDLおよび流路設計に役立ち、高密度発電の維持と開発費の削減が期待される。
U.開発項目
(1)超電導磁石の開発
 発電面積15 cm×15 cmの燃料電池を挿入可能な1.1 T 超電導磁石を開発した。静磁場の時間安定性が-0.60 Hz/hour、均一性が周波数-1180 〜1380 Hzの範囲内で、高い静磁場均一性を有し、最終目標を達成した。
(2)デジタル検波方式(DC)の開発
 微弱なNMR信号を計測するためのデジタル検波方式(以下、DC方式)を開発した。NMR信号の安定性(ばらつき)を±9.3 %に低減できる検波モジュールを活用して128個の小型NMRコイルを計測できるシステムを開発し、最終目標を達成した。
(3)高感度な小型NMRコイルの開発
 同軸ケーブルと可変コンデンサーを高信号化および低ノイズ化し、従来法よりSN比が2倍向上した共振回路を開発した。また、形状、径、巻き数を工夫してSN比を5倍に向上した小型NMRコイルを開発した。受信感度のSN比は、共振回路とコイルを組み合わせることで10倍となり、最終目標を達成した。
(4)パラレル送受信機の開発
 8個のDC方式の検波モジュールと16個の小型NMRコイルを制御できる計測ソフトウエアを活用しパラレル計測システムを開発した。128個のコイルが接続可能で、計測の時間分解能は0.48秒であり、最終目標を達成した。
V.評 価
 従来、大型施設を必要とする中性子線散乱を用いて測定していた燃料電池内の液化水の発生挙動を、電池内に小型NMRコイルを多数挿入して直接測定できる小型計測システムを開発する試みである。開発は順調に進捗し、全ての最終目標を達成した。
 超電動磁石、デジタル検波方式(DC)回路、高感度小型NMRコイルを活用し、計測時間分解能の最終目標を達成したパラレル送受信機を開発したが、小型コイルの均一性、計測システムの安定性等、未だ解決すべき課題が残されていると想定される。
 今後は、更なる検討を重ねて想定される課題を解決し、装置の目的・用途をより明確化して、ユーザーメリットを熟慮した製品開発を着実に推進することを期待する。
 本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。