資料4

開発課題名「太陽電池伝導キャリア分光システムの開発」

(平成25年度採択:グリーンイノベーション領域 機器開発タイプ)

チームリーダー :  宇治原 徹【名古屋大学 大学院工学研究科 教授】
サブリーダー :  竹内 幸雄【(株)VICインターナショナル 代表取締役】
中核機関 :  名古屋大学 大学院工学研究科
参画機関 :  (株)VICインターナショナル、MBSジャパン(株)
T.開発の概要
 従来の太陽電池開発では、光によって励起されたキャリアを如何に効率よく取り出すかが重要であったが、超高効率化が期待されている第三世代太陽電池においては、どのようなバンド構造においてどのようなエネルギーを持つキャリアを取り出すかを綿密に制御する必要がある。本開発では、太陽電池中の伝導帯バンド構造およびキャリアエネルギーを直接測定できる唯一の評価法として、伝導キャリアエネルギー分光システムを早期に開発する。これにより、超高効率太陽電池開発が加速される。
U.中間評価における評価項目
(1)NEA(Negative Electron Affinity)形成装置の製作
 本装置は半導体伝導帯の電子を表面から効率良く放出させて電子のエネルギーレベルを容易に計測する装置であり、半導体表面にCs原子及びO原子を積層構造にコントロールして積層構造に蒸着することでNEA状態を形成し、より高い量子効率を得ることができるようにした。GaAs標準試料を用いて633 nmの光照射にて量子効率を1%以上で電子放出を実現した。
(2)低エネルギー電子分光装置の製作
 NEA表面から放出される電子の多くは、1 eV以下の非常に低いエネルギーを持った電子であるため、アナライザで測定するためには適度に加速をする必要がある。また、本測定では、角度分解光電子分光を行うが、なるべく広い放出角度の電子を測定するには、比較的高い電圧をかけつつ、確実にアナライザの静電レンズへと導き、同時に放出角度情報を保った状態で結像させる必要がある。本開発では、これを実現するためにサンプル直前に金属メッシュを配置することによる二段加速レンズ系を新たに開発した。
(3)分光感度測定系の製作
 マルチバンド型太陽電池では、中間バンドを利用することで長波長の光吸収を有効に行なうことを目的としている。そのため、比較的広い波長範囲(300〜1700 nm)で単色光および白色光を照射する必要があるため、光照射系のシステム開発を行い伝導電子の挙動と励起光エネルギーとの相関を調べた。さらに、マルチバンド型太陽電池においてはバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーのフォトンを複数吸収することで、変換効率を向上させており、この効果も評価するために、2つの異なる波長の光を同時に照射できるシステムを構築した。
V.評 価
 本開発装置は太陽電池の伝導体構造、及びキャリアエネルギーを測定できる装置としてユニークであり、開発開始時に十分な基礎データを有していたこともあって、機器開発が順調に進展しており、計画通り推進されていることは大いに評価できる。本装置は、第三世代太陽電池の開発に有効な手段となり得るが、新規性が極めて高いため、まだ確立したとは言えない状況である。したがって、まずは本手法の再現性、信頼性、妥当性を明確に示すことに注力すべきである。特に、NEA形成の再現性、安定性が計測における今後の重要課題になると考えられるので、メカニズムを解明しつつ、開発を着実に推進すべきである。[A]