資料4

開発課題名「マイクロ秒分解能・表面張力スペクトロメータの開発」

(平成24年度採択:一般領域 要素技術タイプ)

チームリーダー :  酒井 啓司【東京大学 生産技術研究所 教授】
サブリーダー :  里見 秀人【京都電子工業(株) 開発推進部・製品企画課 課長】
中核機関 :  東京大学
参画機関 :  京都電子工業(株)
T.開発の概要
 液体表面張力の時間変化を10 μsの時間分解能で追跡できる表面張力スペクトロメータを開発する。この時間分解能はインクジェットや高速印刷、噴霧など、現在の重要な微小液体プロセスの典型的な時定数であるが、従来の手法では高々1msの分解能が限界であった。本課題では、開発チームの独自開発による微小液滴ハンドリング技術により、必須の物性値である「時間変化する表面張力」の測定を可能にし、当該分野における装置設計や現象解析に強力なツールを提供する。
U.中間評価における評価項目
(1)液滴振動観察を行なうストロボ観察ユニットの完成
 液滴射出・振動励起・振動観察の各ユニットを組み合わせた表面張力の時間変化を測定する装置を作製した。さらに純水および各種界面活性剤水溶液における表面張力の時間変化を測定し、その精度が1 %以上であること、さらに液滴射出後の時間領域20 μ〜2 m秒における任意の時刻に表面張力を計測できることを確認し、目標を完全に達成した。
 連続して生成される液滴から一個のみに選択的に電界を印加し、これに伴うマックスウエル応力により当該の液滴の飛翔方向を偏向させ、任意の液滴を抽出する技術を開発した。電界を印加する電極などの最適化により、目標値を超えた100 kHzで連続生成される液滴列への適用が可能となった。さらに抽出した液滴の加速並びに減速技術を開発し、空中での試料液体のハンドリング技術を完成させた。
(2)レーザーによる液滴振動観察の要素技術確立
 FDTDシミュレーションによる散乱パターンの予測は任意の大きさとアスペクト比を有する回転楕円体による光散乱理論を用い、その有効性を確認した。数値計算により、振動しながらレーザービーム中を通過する液滴による光散乱パターンを、様々な試料の屈折率について短時間で計算することが可能になり、光散乱計測システムにおける受光素子の配置などを最適化した。
 レーザー光散乱測定ユニットは、飛翔液体がレーザービームを横切る際の散乱光の時間変化、ならびにこの液滴に振動を誘起した際の散乱光の時間変化を実験的に検出することに成功した。またこの実験装置を作製する中で、LEDストロボによる液滴振動の高速撮影の着想を得て、実際にそれを導入したところ、極めて高い時間・空間分解能での振動観察が可能になった。
V.評 価
 微小水滴の表面張力の経時変化を高速で追跡できる独自性の高い手法開発で、吐出量を1 %精度で制御し10 μmの液滴の生成に成功し、時間分解能は最短5μsと目標値を上回っている。電場の印加方法も工夫されており、安定化の方向にある。また、レーザーによる振動の自動検出は、理論的考察を進め光学配置に精度限界があることから、LEDのストロボ画像撮影に変更し、より安価、簡便な装置にするなど、実用化に向けた努力を積み重ねた。これらの開発により、水の10倍の粘性液体の表面張力も測定可能にした。また液滴の静止などの制御技術も高度化しており評価できる。今後は製品化を早急に進め、標準化についても積極的に推進すべきである。 [S]


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