資料4

開発課題名「MSスペクトルから糖ペプチド構造を推定するソフトウェアの開発」

一般領域 ソフトウェア開発タイプ

開発実施期間 平成22年10月〜平成25年3月

チームリーダー :  天野 純子【(公財)野口研究所 研究部 糖鎖生物学研究室長】
サブリーダー :  高羽 洋充【東北大学 大学院工学研究科 准教授】
中核機関 :  (公財)野口研究所
参画機関 :  東北大学、ライフィクス(株)
T.開発の概要
 これまでに独自のピレン誘導体化と新規プレートを基盤にした超高感度糖ペプチドMALDI−MSシステムを開発し、従来では検出困難であった20pgの糖ペプチドが測定可能となった。本課題では、スペクトルから瞬時に構造を解明するソフトウェアを開発する。従って、糖鎖科学の専門家でなくても、どのタンパク質の、どのアミノ酸に、どのような糖鎖構造が結合しているかを決定することが可能となり、構造と機能の解明が容易になるので、診断や治療に役立つことが期待される。
U.開発項目
(1)MSスペクトルから糖ペプチド構造を推定するソフトウェアの開発
 実測スペクトルデータを予測スペクトルと比較し相似性を数値化できるプログラムを開発した。予測スペクトルを得るためにフラグメントとなる糖ペプチドの切断確率、脱プロトン確率、電子移動確率を量子化学計算で算出するアルゴリズムを開発し、とくに脱プロトン確率を用いて短時間でスペクトルシミュレーションが可能になった。またフラグメントの分子量から分子組成を算出するプログラム、さらに分子組成からフラグメントの糖鎖構造候補を推定するプログラム等、一連のプログラムを開発して精度良く糖ペプチド構造を推定できるようになり、目標を達成した。
(2)実測スペクトルおよび計算結果を格納するデータベースシステムの開発
 実測スペクトルデータをソフトウェアで処理、解析できるように最初にテキストデータへの変換プログラムを作成、それを基にデータベースとして格納できる仕様とした。1,235例の実測スペクトルを取得し,データベースに格納した。また負のイオン化エネルギーと量子化学計算で得られた脱プロトン確率に相関性があることがわかり、一連の糖鎖水酸基の脱プロトン確率を求め、データベース化した。さらに切断確率からスペクトルをシミュレーションし、実測スペクトルと比較しながら確率を最適化するプログラムを確立した。
(3)解析システムのインテグレーション
 開発したサブシステムを統合し、WPFに基づくGUIを用いてユーザビリティを高め、高速で使いやすい統合インターフェイスを開発した。ただし、ユーザーレビューがまだ不足しており、今後はユーザーからの情報を入手しながら、修正してより使いやすいシステムを構築する予定である。
V.評 価
 MALDI-TOFMSで得られる糖ペプチドの膨大なMSスペクトルデータからシミュレーションを加えて糖鎖構造を推定するソフトウェアシステムを構築した。量子化学計算をベースにフラグメント予測を行い、スペクトルデータ予測を高速に行って糖ペプチド構造を推定するソフトウェアを完成させたことは、糖ペプチドの研究分野に飛躍的発展をもたらすものと期待される。本開発ソフトウェアの製品化も目途が立ったが、今後は本システムを用いて糖鎖データベースをさらに充実させ、医療、医薬等の市場展開に向けてもう一段のレベルアップを図ることが望ましい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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