資料4

開発課題名「水分子をプローブとする物質・生体評価手法の開発」

一般領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成21年10月〜平成25年3月

チームリーダー :  八木原 晋【東海大学 理学部 教授】
中核機関 :  東海大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
 あらゆる物質や生体には、含有されている水分子による構造形成と機能発現のメカニズムが備わっている。1μHz〜30GHzの広帯域でダイナミックな水構造を直接観測する電磁波分光装置に対し、水構造観測用電極と構造や物性・機能評価の解析手法を開発する。生体・食品からコンクリート建築物に至るあらゆる含水物質について、水分子をプローブとした品質・健常性評価システム構築へとつなげる。
U.開発項目
(1)BDS(広帯域誘電分光)観測・解析共通基盤技術の開発
 これまでの水構造解析では、水構造の概念に水分子の集合構造であるクラスターモデルを使う場合が多かった。これは従来の解析では水構造ゆらぎの観測が困難であることや、混合系の溶質濃度の増加による緩和時間分布の広がりに共通の性質を見出すことが難しかったためである。本開発の緩和時間分布と緩和時間を関連付けたフラクタル構造モデルを導入すると、溶液から分散系までの幅広い物質群に共通に適用できる評価システムが可能となる。本開発によって、幅広い水系の構造と性質が、水分子の水素結合ネットワーク構造のフラクタル次元の縮小を伴うスローダイナミクス(構造形成過程)として特徴づけられる、という基本的な描像を示すことができた。含水量はもちろんのこと、緩和時間やその分布による水構造評価による新たなフラクタル水構造解析が有効であることを示す。
(2)生体評価システム開発
 本開発における生体系のフラクタル構造解析への適用によって、タンパク質の水構造解析から、典型的な水溶性合成高分子の水溶液よりもフラクタル次元がきわめて小さく、その値が0.1程度にまで小さくなることを見出した。数値解析シミュレーションから,これはタンパク質水溶液が本質的には分散系の水構造を有していることがわかった。さらにチーズなどの食品についても、フラクタル次元がそれぞれの特徴的な値をとっていることがわかってきた。さらに皮膚の場合には、層構造の深さに依存するフラクタル性の可能性が得られつつある。これらの結果から、生体系の不均一な水構造の特徴づけのために、本開発による含水量測定をさらに進めた新たな評価手法の開発可能性を示している。
(3)セメント評価システム開発
 打設後のセメント中の水は、バルクの水の状態から、セメント粒子や混合剤による束縛やセメント水和による硬化過程に伴って、その動的挙動を時間とともに大きく変えていく。本開発ではセメントにフラクタル水構造解析を適用して、少なくとも2種類の構造水のフラクタル性が特徴的な経時変化を示すことがわかった。さらに経年試料に新たに水を導入して調べたところ、フラクタル性の異なる水構造が加水・乾燥過程で時間とともに交換していく様子が明らかになってきた。これはセメント系試料評価で求められる経年試料内の水構造評価と密接に関連する基礎的な知見である。これらの結果から、セメント系の多様な構造水の特徴づけのために、本開発による含水量測定をさらに進めた普遍的な評価手法構築の可能性を示している。
V.評 価
 誘電緩和時間挙動が17桁に変化する水の挙動の広帯域の全体像を従来比1/10の短時間で測定できる装置を開発し、実用評価を重ね、揺らぎと緩和時間で整理して系統的に全体像を把握する解析手法を確立した。特に、精力的に他分野の測定を進めてそれぞれに実効的な成果を挙げたことは要素技術を超えた特筆すべき成果と評価できる。
 これまで簡便な測定ツールがないために測定できなかった、水に関連する挙動の理解が進むことで、医薬、バイオ、食品、ものづくり、建築、環境、エネルギーなどの幅広い分野の発展や安全安心への貢献が期待される。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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