資料4

開発課題名「超伝導ナノ細線HEBM素子の高性能化開発」

一般領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成21年10月〜平成25年3月

チームリーダー :  福井 康雄【名古屋大学 大学院理学研究科 教授】
中核機関 :  名古屋大学
参画機関 :  大阪府立大学(平成22年度から)
T.開発の概要
 地球大気中のさまざまな分子・原子・イオンのスペクトル線が、テラヘルツ(THz)帯と呼ばれる高い周波数の領域に分布しているが、これらのTHz帯スペクトル線をヘテロダイン分光する実用的な高感度検出器は存在しない。本課題では、NbTiNナノ細線を用いた静電気や熱サイクルに強い超伝導HEBM素子を開発する。これにより、反応性が高いため採取観測が困難なOHなどの短寿命微量分子の測定に寄与することが期待される。
U.開発項目
(1)HEBM細線形成プロセス
 平成22年度までHEBM素子の製作は順調に進み、ヘテロダイン動作の検証に成功している。しかしながら、平成23年3月の震災に伴い、不幸なことに製膜装置のトラブル、ICP装置の他のユーザーによる汚染等々が続発し開発期間の大部分を成膜装置や電子線描画装置、エッチング装置などの修復やメンテナンスに費やした。開発終了の2013年4月時点で、ようやくHEBM細線が超伝導転移するまでに復帰できており、今後の開発を期待する。目標は未達成である。
(2)HEBM検出素子の性能評価
 素子製作の遅れのため 細線構造の最適化やビーム特性評価には至っていない。平成22年度のHEBM素子を用いて、電流-IF出力特性が上に凸の特性をもつことは確認できており、感度と安定動作が両立する解が1.8-2THz帯においても存在することが判明している。IF帯域は0.8-1.8 GHz帯において広く伸びていることがわかり(ほぼ初期目標の2GHz)、さらに高周波側まで伸びていると予測される。IF出力安定化については、現在,冷凍機の振動がHEBM検出素子への局部発振信号の照射パワーの変動を誘起し、アラン分散は1秒程度と目標値(10秒)を達成できていない。
(3)プラズマセルによるHEBM素子ヘテロダイン分光の検証
 プラズマ装置の窓材として高密度ポリエチレン膜を試験した結果、1mmと薄くTHz波を透過し、ラジカルなどにさらされても腐食せず、大気圧にも耐えることを確認できた。超伝導HEBMを搭載した分光システムは、平行平板電極によるプラズマの発生に伴う放射ノイズや電磁場(2kW、13.56 MHz 第2,3高調波 〜 -40dB以下)の変動の影響を受けにくく、実用に耐えるシールド性能をもつことを確認できた。THzヘテロダイン分光によるプラズマ診断の応用についてS社や名古屋大学工学部などと、また、飛翔体(衛星や気球)を用いた宇宙観測や地球・惑星大気環境計測応用については、JAXAやNICT、中国紫金山天文台(中国)などと協力体制の構築中である。
V.評 価
 超伝導ナノ細線を用いたホットエレクトロンボロメータミクサ(HEBM)検出素子を開発することによって、THz帯の信号をヘテロダイン測定できるシステムの開発を目標としている。東日本大震災の影響を受け、HEBM細線形成プロセスの構築、HEBM検出素子の性能評価とプラズマセルによるHEBM素子によるヘテロダイン分光の検証等を期間内に行うことができなかった。本開発では、当初の開発目標を達成できなかったと評価する。今後、修復された成膜装置を利用して開発の各段階をクリアし、実用化に向けた新たな課題・目標を模索しつつ、本開発において得られた知見も活用しながら着実に開発を進められることを期待したい[C]。


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