資料4

開発課題名「多分子ライブイメージングを可能とする蛍光プローブの開発」

一般領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成21年10月〜平成25年3月

チームリーダー :  廣瀬 謙造【東京大学 大学院医学系研究科 教授】
中核機関 :  東京大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
 蛍光プローブを用いて分子を可視化する蛍光イメージング技術が近年注目されている。本開発では、観測対象分子に結合するタンパク質と蛍光色素の複合体からなるハイブリッド型蛍光プローブをハイスループットに作製する系を構築し、さまざまな色(蛍光波長)の蛍光プローブを迅速・簡便に作製する技術を開発する。この技術によって生きた細胞で複数の分子を同時にイメージングする技術を確立し、新薬開発や生命科学研究への貢献が期待できる。
U.開発項目
(1)蛍光プローブの効率的な作製技術の開発
 中枢神経において、カルシウム、グルタミン酸、IP3、NO、ATPなどの中枢神経系のシグナル分子の動態に関与する分子として、グルコース、グルタミン酸、ATPのハイブリッド型蛍光プローブの開発に成功した。実用レベルの蛍光変化のダイナミックレンジを示す蛍光プローブとしてグルコースプローブでは18個、グルタミン酸プローブでは26個、ATPでは15個を得た。また、nMオーダーからmMオーダーの広い範囲のリガンド対する解離定数をもつ蛍光プローブを得ることができ、細胞内外の様々な状況に対応できる広範なダイナミックレンジを有する蛍光プローブ群の整備が完了した。また、各対象分子に対するハイブリッド型蛍光プローブは新規に開発した蛍光色素を用いることで、多色化されたものを得ている。以上の成果より、達成目標に到達している。
(2)蛍光プローブ用の新規蛍光色素の作製
 明るい蛍光を発する母核を基に、光誘起電子移動理論や化合物の特徴的な構造に着目して分子設計を行い、ハイブリッド型蛍光プローブに適した鋭敏な環境感受性を示す色素の開発に成功した。開発した色素はBODIPY骨格、ローダミン骨格を有し、非常に明るい蛍光を発するため優れたシグナル―ノイズ比での蛍光イメージングに適している。また、開発した色素群の蛍光波長は青緑領域から赤領域に段階的に揃っており、多様な蛍光波長のバリエーションを実現している。以上の成果により、達成目標に到達している。
(3)多分子ライブイメージング
 マルチカラーイメージングに用いる蛍光プローブの各々のチャンネルへの漏れ込みを予め評価し、神経細胞/アストロサイトを用いた5色イメージングにおいて、各蛍光プローブのシグナルを線形分離アルゴリズムにより分離した。各々の蛍光プローブの特徴的な染色パターンを抽出し、かつグルタミン酸とカルシウムの時空間動態をリアルタイムに追跡することに成功した。本開発で開発したグルタミン酸プローブを用いたイメージングによって、神経回路内のシナプスからのグルタミン酸放出を単一シナプスレベルで分離して解析することに成功し、シナプス伝達効率を決定するグルタミン酸の放出確率、シナプス内のグルタミン酸放出部位数が個々のシナプス毎に異なることを見出した。さらに、シナプスやアストロサイトの局所から放出されたグルタミン酸やATPが周辺への拡散やトランスポーターによる回収によって示す複雑な挙動を直接イメージングすることで、本技術が複雑な生体システムの理解に貢献できることを実証した。本開発で多色化されたハイブリッド型蛍光プローブの性能を最大限に引き出す顕微鏡システムのプロトタイプの構築をハードウェア、制御/解析ソフトウェアの両面から行い、5色で染色した生細胞標本で5色イメージングを実現した。以上の成果により、達成目標に到達している。
V.評 価
 数10種類に及ぶ蛍光プローブ群の整備、蛍光波長が青緑領域から赤領域までをカバーする蛍光色素の調製、生細胞の5色イメージングなど、掲げた目標を全て達成したことに加え、単一シナプスからのグルタミン酸放出の解析に成功するなど、神経科学のブレイクスルーに繋がる方法論を提供した点は大いに評価できる。本課題は当初の目標を達成し、それを上回る成果を得られたと評価する[S]。


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