資料4

開発課題名「生体・飲料・環境試料溶存イオン導入技術の開発」

一般領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成21年10月〜平成25年3月

チームリーダー :  大平 慎一【熊本大学 大学院自然科学研究科 准教授】
中核機関 :  熊本大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
 生体・飲料・環境試料の多くは固形物や高分子量物質を含むため、溶存イオンの直接測定が困難となっている。本開発では、このような試料の溶存イオンを抽出・濃縮し、イオンクロマトグラフや質量分析計に導入するインターフェースを提供する。これにより、イオンクロマトグラフィーによる陽イオン・陰イオンの同時分析や、血液・母乳・尿中などの各種有機・無機イオンの迅速一斉分析の実現が期待される。
U.開発項目
(1)溶存イオン抽出デバイスの開発
 電界下におけるイオンの泳動作用を利用したインライン前処理デバイス(長さ110 mm ×幅 35 mm×厚さ 25 mm)を開発した。イオン透過膜を透析膜、電極隔膜をイオン交換膜とする5つの溶液層(各液層厚み127 μm)から成り、導入した試料溶液から陽イオンと陰イオンを別々のアクセプター溶液中に迅速に(〜5秒)抽出することができた。このアクセプター溶液は、直接測定器へと導入可能である。
(2)陽イオン・陰イオンの抽出および濃縮
 最適化条件において、一般的な無機の陽イオンおよび陰イオン、有機酸イオン、重金属イオンを95%以上の抽出率でアクセプター溶液中に取り出すことができた。アクセプター溶液には、純水を用いることができるが、いくつかの重金属イオンでは、硝酸をアクセプター溶液とすることで抽出特性が大きく向上した。また、アクセプター溶液に対して、試料溶液を大流量で連続導入することで、試料溶液中の溶存イオンをインラインでマトリックスの除去と同時に濃縮することに成功した。しかも、陽イオンについては60倍、陰イオンについては50倍まで、流量比と濃縮比に1:1の関係が得られたことから、試料濃度や後段の分析装置に合わせて任意の濃縮率を容易に得ることが可能となった。より大きな流量比では、抽出効率が低下したが、重金属イオンについては、試料流量をアクセプター溶液流量の200倍とすることで、100倍の濃縮率が得られることを確認した。
(3)イオンクロマトグラフへの試料導入インターフェースの確立と実試料への応用
 本デバイス、送液系とオートサンプラーに分析計を組み合わせた全自動前処理−分析システムを構築した。イオンクロマトグラフィーと組み合わせたシステムでは、分離・検出の間に洗浄、前処理プロセスを平行して行い、タイムラグなしで連続分析が可能であった。本開発において、飲料水、牛乳、ワイン、血清、だ液を試料とする分析法を確立した。併せて、マイクロイオン抽出デバイスを開発し、試料1滴からイオンを取り出し直接イオンクロマトグラフィーへと導入する手法を確立した。ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)と組み合わせた血清中重金属イオンの分析では、イオン抽出デバイスによる前処理により、従来法よりも再現性がよく、また、妨害物質が取り除かれることから高精度な分析が可能となった。
V.評 価
 本課題は、生体試料や環境試料中の溶存イオンを、前処理なしに直接イオンクロマトグラフィーなどの分析装置への導入及び測定を可能とするデバイスの開発を目指した。挟雑物を多量に含む一部の試料(血液)については、遠心分離など最小限の前処理を施す必要が生じたが、概ねすべての開発目標を達成し、本デバイスの有用性を実証することに成功した。今後は、応用分野を絞り、メーカーの協力を得ながら、実用化に向けた開発を継続することが期待される。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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