資料4

開発課題名「迅速高感度な新規蛋白質相互作用検出系の開発」

一般領域 要素技術タイプ

開発実施期間 平成21年10月〜平成25年3月

チームリーダー :  上田 宏【東京工業大学 資源化学研究所 教授】
中核機関 :  東京工業大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
 蛋白質間相互作用検出系は、創薬・診断など幅広いライフサイエンス分野で応用可能な重要な計測技術である。本開発では、これまで不可能であった高感度な生物発光に基づく試験管内蛋白質相互作用検出系の実現を目指す。ホタルルシフェラーゼの変異体を巧みに組み合わせて、従来法に比べ、飛躍的に高速・高感度に蛋白質の相互作用を検出する要素技術を開発する。蛋白質、核酸、低分子など殆どすべての分子の相互作用を効率よく検出することが可能となる。
U.開発項目
(1)Fluc変異体ペアの最適化および相互作用部位とFluc変異体との結合法の最適化
 アデニル化反応の変異体等を用いて、応答性と発光強度の高い変異体ペアを開発した。既存の発光酵素を用いた方法に比べ、蛋白質同士の相互作用の有無で100倍の発光強度差と測定時間5秒以内を目標としたが、70倍以上の発光強度差を1秒以内に検出することに成功した。また、濃度的には、2.5 fmol以下の蛋白質間相互作用検出が可能となった。相互作用部位と変異体間のリンカーは、複数の系で基本的に短い方がより高いsignal/background比(S/B比)が得られるものの、従来のFRET(Förster resonance energy transfer)法,PCA(Protein-fragment Complementation Assay)法では検出できない長距離の相互作用を検出することに成功した。
(2)オープンサンドイッチ抗原検出系、抗原抗体反応検出系およびサンドイッチ抗原検出系の構築
 抗原リゾチームの測定を通して、現在の検出系と検出部位の大きさがほぼ同じであり、低分子を非競合的に測定可能という他にないメリットのある抗リゾチーム抗体・抗BGP抗体を用いたオープンサンドイッチ抗原検出系を構築することに成功した。抗原抗体反応検出系に関しては、乳がん細胞表面糖鎖を認識するhCC49一本鎖抗体を検出部に用いて、乳がん細胞株MCF-7を特異的に検出することが可能となった。サンドイッチ抗原検出系として、ビオチン化MBP融合VLを固定化し、ストレプトアビジン融合ドナー変異体・VH融合アクセプタ変異体を加えることにより、抗原濃度依存的にシグナルの増加が認められた。
(3)薬物スクリーニング系の構築
 抗ガン剤スクリーニング系として構築したp53類似ペプチド融合ドナー変異体・Mdm2融合アクセプタ変異体に、p53・Mdm2相互作用阻害剤であるNutlin-3を試験管内で加えた結果、Nutlin-3の濃度依存的なシグナルの減少が認められた。また、抗炎症剤スクリーング系として構築したFKBP12融合ドナー変異体・FRB融合アクセプタ変異体に、FKBP12・Mdm2相互作用を阻害する効果のあるFK506とascomycinを試験管内ならびに培養細胞系に加えた結果、FK506またはascomycinの濃度依存的にシグナルが減少することを検証した。
V.評 価
 本課題は、ホタルルシフェラーゼの発光反応がアデニル化と酸化的発光反応の2段階であることに着目し、両ステップにおける各変異体間の相補効果を検出するという原理に基づいた独創的な生体高分子相互作用解析法の開発である。変異体ペアの最適化及び相互作用部位と変異体との結合法の最適化をはかることにより、発光酵素を用いた既存のFRET法、PCA法に比し優れた側面を有する解析法の開発に成功したが、一部の数値目標については達成できなかった。本開発は、本事業の趣旨に相応しい成果が得られなかったと評価する。今後は、創薬スクリーニング等の応用を通して、実用化に向けた開発を継続することを期待したい[B]。


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