資料4

開発課題名「IMSによる土壌由来カビ検出データベースの構築」

(平成21年度採択:ソフトウェア開発タイプ)

開発実施期間 平成21年10月〜平成24年3月

チームリーダー :  竹内 孝江【奈良女子大学 理学部 准教授】
サブリーダー :  中村 義隆【(株)ダイナコム 開発部 部長】
中核機関 :  奈良女子大学
参画機関 :  (株)ダイナコム、名古屋大学、東邦大学、産業技術総合研究所
T.開発の概要
古墳などに生育する土壌由来カビが放出する微生物由来揮発性有機化合物(MVOC)を、SPME/IMS装置で観測する場合に、検出されるスペクトルからカビの種類とカビの成長段階を識別するためのソフトウェアを開発する。特に、大気からSPMEにより濃縮された試料は混合物であり、このスペクトルから土壌由来カビのMVOCを分離・特定するソフトウェアを開発する。そのために必要な、カビの代謝機構・代謝物質の化学などの学術知見の統合化を行う。
U.事後評価における評価項目
(1)解析ソフトウェア(同定プログラム)の開発
同定プログラムについては多変量解析を用いた方式を検討し、複数のMVOCが強い相関を持って変化している可能性が高いことから、多重共線性に強い部分最小自乗(PLS)解析を採用した。IMS(Ion Mobility Spectrometry)測定データに対してはIMSスペクトルを、GC/MS測定データにはTICクロマトグラムを直接説明変数としたPLS解析によって、対象カビ種の判定関数を作成した。さらにクロスバリデーションにより生成した判定データにROC解析の手法を用いてその判定性能の評価も行い、IMS、GC/MSいずれにおいても90%以上の正解率でカビの同定を可能とし、目標を達成した。IMSのMVOCの個別同定に関しても情報量規準を用いた評価を行い、SHASH (sinh-arcsinh)分布をフィッティングすることが妥当である結果を得て、GC/MSスペクトルデータとの対応から同定を可能にした。
(2)カビデータベースシステムの開発、およびニオイのデータベース構築
  カビ種、MVOC標準物質などのIMS, GC/MSによる測定データを、登録管理するカビ種、代謝系遺伝子関連情報等と共にデータベースとして格納、検索、出力できるソフトウェアシステムを構築した。それを用いて、カビ4種の生育条件の違いによるMVOCスペクトル集積(IMS:10000点、GC/MS:12000点、LC/MS/MS:12000点)、および、カビ臭の標準物質18種のIMSデータベースを構築した。
(3)生物学的データベースの構築
 Aspergillus nidulansにおいて、揮発性物質代謝に関わる可能性の高い遺伝子を10遺伝子見つけ、そのうち少なくとも1つについて揮発性セスキテルペンの生成に関わることを実証し、遺伝子情報を統合的に扱えるデータベースシステムの基礎を得た。
V.評 価
本課題の目的は、カビが産生する揮発性化合物(MVOCs)ならびにカビ種をイオンモビリティ分析(IMS)装置で高感度に同定するためのデータベースの構築である。一定の培養条件で生育させた4種のカビにつき、GC/MSデータとIMSデータが相関し、上記の目的を達成できるデータベースの構築に成功し、当初の目標を達成した点は評価できる。しかし、カビが生え始めている境目を確実に検出できるか等、現状では実用性に解決すべき課題が残っている。今後は本ソフトが搭載されるカビ検出用のイオンモビリティ分析装置の市場化の状況を踏まえ、本ソフトの実用化に向けた取り組みを引き続き行うことを期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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