資料4

開発課題名「次世代IMS(イオンモビリティスペクトロメータ)用カスケード増強型同軸円筒イオン化チェンバの開発」

(平成21年度採択:要素技術タイプ)

開発実施期間 平成21年10月〜平成24年3月

チームリーダー :  松谷 貴臣【近畿大学 理工学部 講師】
中核機関 :  近畿大学
参画機関 :  (株)エックスレイ プレシジョン
T.開発の概要
悪臭計測やカビ・センサなどへの応用が期待されているイオンモビリティ分析装置(IMS)の検出限界を現在市販されているものよりも10倍向上させることができる、パルス軟X線励起による光イオン化と光電子カスケード現象を併用した高出力イオン化チェンバの開発を行う。これにより、食品中のカビの検出、環境汚染の臭いの検出のみならず、防疫、テロ対策などへの波及効果が期待される。
U.事後評価における評価項目
(1)カスケード増強型同軸円筒イオン化チェンバによるイオンの安定・高出力化
 世界初軟X線励起とカスケード現象を応用したIMSを開発し、カビ由来の揮発性有機物(2-メチル-1-プロパノール、2-エチル-1-ヘキサノール、エタノール、ジメチルスルホキシド)の検出に成功した。開発したイオン源は、乾燥空気の流量が500 ml/min.の時の変動率が5.7 %と非常に安定であった。また、イオン源のみの試作器において検証した結果、従来品に比べ40倍のイオン強度が確認できた。イオン強度は目標であった103倍までは到達できなかったが、IMS装置に導入した場合ではイオン出力25倍の高出力化に成功した。
(2)軟X線源の長寿命・高輝度化
従来のカーボンナノチューブ冷陰極では10-4 Paにおける仕様では消耗が著しく長時間の安定性を得ることができなかったが、本プログラムによって開発したZnOエミッタでは12時間で7%の変動しかなく、エミッション電流減衰の兆候は見られなかったため、10倍以上の長寿命化を達成したといえる。また、Ti2Nターゲットを用いることによりTiの密度が2/3になったものの、尖頭電流値が5倍以上、硬度が従来のTiターゲットに比べ20倍以上となったため、衝突電子の加速電圧を向上することが可能となり、最終的には1.5倍以上の高輝度化を達成した。
(3)イオン源の小型化
 イオン源、ドリフトチューブおよび検出器を含めても、160×200×50 mmと装置の小型化に成功した。
V.評 価
放射性同位体を使用しないIMS向けイオン源の開発を目的としている。イオン源の開発として、軟X線による試料のイオン化、光電子カスケードによるイオン増幅、イオン化室へ薄層化した軟X線の導入、軟X線源のターゲット開発等、多様な要素技術について検討し、カビから放出される代表的な揮発性有機物質の検出に成功した。しかし、開発チームの十分な努力は認められるものの、既存品に対して10倍の高感度化という当初の目標達成までには至らず、また、定量性に関しても未解決の問題が残っている。今後は、カスケード増幅という基本原理の解析とともに標準物質を用いた定量化を念頭におき、継続した検討が必要である。本開発は、当初の開発目標を達成したが、本事業の趣旨に相応しい成果は得られなかったと評価する[B]。


前のページに戻る