資料4

開発課題名「高度光診断治療に向けた生体組織の光学定数計測技術開発」

(平成20年度採択:要素技術タイプ)

開発実施期間 平成20年10月〜平成24年3月

チームリーダー :  粟津 邦男【大阪大学大学院 工学研究科 教授】
中核機関 :  大阪大学
参画機関 :  大阪大学(医学部付属病院)
T.開発の概要
高度光診断治療を実現するためには生体組織の正確な光学定数(吸収係数と散乱係数)を決定する必要がある。このため、本開発では、光学定数算出に必要な透過率・反射率を正確かつ広帯域に測定可能な積分球分光分析技術、透過率・反射率から吸収係数・散乱係数を算出するプログラム、吸収係数・散乱係数を利用して細胞や生体組織の特性を定量評価するプログラムの開発を行う。本技術は光診断治療に定量的な概念を導入し、より安全な光診断治療を実現するための有力な要素技術となる。
U.事後評価における評価項目
(1)波長350nm〜12.5μmの透過率スペクトルと反射率スペクトルの測定システム開発
 波長350〜2000nm及び5.5〜10μmの拡散反射可能な積分球光学系を開発し、測定ばらつきがそれぞれ±2%以下、±5%以下を達成した。また、可変制御可能なサンプルホルダーの開発も実施し、それらを使用した測定システムを開発した。可視域、近赤外域、中赤外域の検量線は、それぞれ 市販のマルチプレートリーダー、分散型分光光度計、顕微フーリエ変換型赤外分光光度計 と重相関を達成した。
(2)測定データから光学定数を算出可能なソフト開発
吸収係数、散乱係数の算出アルゴリズム及びプログラムを開発した。逆モンテカルロ法を用いた吸収係数スペクトルおよび散乱係数スペクトルを算出できる高速アルゴリズムとそれに基づくプログラムを開発し、算出ばらつき±1%以下を達成した。また、逆アディングダブリング法との性能評価を実施し、従来法では測定できない高濃度対象でも算出可能であることを確認した。既知試料による吸収係数、散乱係数の評価において、検量線の重相関を達成した。
(3)吸収係数スペクトルと散乱係数スペクトルから状態判別する解析手法の開発と応用
吸収係数を横軸、散乱係数を縦軸とした光学定数マッピングプログラムを開発した。実試料の測定で、生体軟組織レーザー凝固治療の照射前後、がん組織レーザー治療の照射7日目、心筋虚血モデルでの心筋虚血前後での光学定数の変化を確認できた。
V.評 価
可視域から中赤外域に至る吸収係数と散乱係数を計測するシステム、及び その測定結果を解析するマッピングプログラムを開発する課題である。複雑な構造を有する生体組織の光学定数を定めるという困難なテーマに果敢に挑戦した。治療に用いるレーザーに適用させるため、可視・近赤外域、中赤外域用の2種の計測システムを開発した。可視・近赤外用システムでは、数種類の生体組織において明瞭な光学定数の変化を確認出来た。中赤外用システムでは、残念ながら応用データ取得に至っていない。既に複数の医療関係者からの依頼でデータ取得が行われているが、今後は、さらに医療研究者等と密接に連携し、本計測システムの開発が更に進捗することを大いに期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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