資料4

開発課題名「顕微メスバウア分光装置の空間分解能向上」

(平成20年度採択:要素技術タイプ)

開発実施期間 平成20年10月〜平成24年3月

チームリーダー :  吉田 豊【静岡理工科大学 理工学部 教授】
中核機関 :  静岡理工科大学
参画機関 :  アプコ(株)
T.開発の概要
走査電子顕微鏡に組込み可能なメスバウア顕微装置の要素技術を開発する。マルチキャピラリーX線レンズとフレネルゾーンプレートを結合した新しいγ線集光レンズを開発し、すでに開発した2次元位置敏感型メスバウア分光装置「顕微メスバウア分光装置」の空間分解能を50μmから100nm以下までに向上させ、ナノメータスケールの極微細組織を有する新エネルギー素材の評価を可能とする。
U.事後評価における評価項目
(1)マルチキャピラリーX線(MCX)レンズとフレネルゾーンプレート(FZP)を結合した新たな集光レンズを開発し顕微メスバウア装置の空間分解能の向上
 実験で得られた集光スポットサイズは、現時点では3μmφに留まっている。この大きな要因として、架台からの振動や計測した放射線防護のための鉛ブロックの重みによる架台の歪みなどが原因と考えられ、これらの点を改良して、新たな実験建屋に、除振台上に新しい顕微メスバウア装置を製作した。また、数100nmの集光スポットによるマッピング測定で予想される57Fe原子数激減による内部転換電子計数率の大幅低下の問題を解決するため,遅延コインシデンスによるメスバウア効果の検出システム開発を完了した。これらの条件が整ったが、ガンマ線源が調達できなかったこと、実験施設の急な移転等により実験を行うことができず、空間分解能の目標値はシミュレーション上でのみ得られ、実験値を得ることができなかった。
(2)顕微メスバウア分光装置の計測システム高度化
「顕微メスバウア装置」に走査電子顕微鏡を組み込み、同一視野の極微細組織観察が可能となり、鉄鋼材料のオーステナイト+マルテンサイト微細組織のマッピング観察を可能にした。さらに、鉄汚染した多結晶シリコンを同一視野で観察し、顕微メスバウア装置の鉄原子マッピング分布との直接比較を可能にした。これにより、結晶粒ごとに異なる鉄成分の分布が観察され、格子欠陥分布との比較観察が可能になった。この世界で初めての評価技術は太陽電池の鉄汚染問題を明らかにするうえで極めて重要で、本研究開発で要素技術を完成することができた。
(3)「顕微メスバウア装置」の有用性をフィージビリティスタディで実証
走査電子顕微鏡の組み込みオプションとしての「顕微メスバウア分光装置」の開発は実質的に終わっており、この基本デザインを利用した改良型の「顕微メスバウア分光装置」を製作した。また、精密位置決めセンサーが装着された“ムービングコイル・リニアアクチュエータ”を利用して等速度測定に適した安価なドライバーを開発した。これにより、多成分同時マッピング測定可能な顕微メスバウア装置を完成させた。本要素技術開発の成果を利用して今後、FeやSnの極微細組織観察が必要な研究分野は広く、顕微装置が大きく普及することが期待される。
V.評 価
γ線の集光技術は、MCPとFZP結合レンズで100nmへの集光を目指すも、実験施設の影響による装置振動と57Co線源の入手難で実験ができず、シミュレーションでの確認のみに留まった。目標値に到達するために必要となる、メスバウア効果のみを鋭敏に検出する新たな遅延コインシデンス計測システムを開発したが、こちらもMCPの劣化で検証には至らなかった。一方でFE-SEMの組み込みによる微細組織観察を行うことができ、等速度測定可能なアクチュエーターの採用で特定のメスバウワスペクトルのマッピングを達成した。これを用いて太陽電池に電子線照射中の鉄不純物の電荷状態を把握する、太陽電池の性能向上に極めて有用な成果を得た。本開発は開発した要素技術の応用により社会的に有用な成果を得ることができたが、数値目標を達成することはできず、本事業の趣旨に相応しい成果が得られなかったと評価する[B]。


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