資料4

開発課題名「ナノ構造制御LaB次世代電界放射電子銃の開発」

(平成20年度採択:要素技術タイプ)

開発実施期間 平成20年10月〜平成24年3月

チームリーダー :  唐 捷【物質・材料研究機構 グループリーダー】
中核機関 :  物質・材料研究機構
参画機関 :  (なし)
T.開発の概要
これまで、電界放射特性のよいLaB6 のナノワイヤ(数10nm径)などのナノ構造化に初めて成功し、ナノ構造LaB6は電子源として従来にない高輝度、大電流密度、長時間安定性などの特性をもつことを明らかにしてきた。本開発では、LaB6をナノ構造制御により、冷電界放射点電子源としての使用可能とし、最適化し、このことにより、1nmの空間分解能をもつ次世代高輝度・高分解能電子銃を開発する。この電子銃開発により、電子顕微鏡などの電子銃を使用する計測・分析機器の性能は飛躍的に向上することが期待される。
U.事後評価における評価項目
(1)高品質LaB6単結晶ナノワイヤ作製の最適化
 CVD(化学蒸着)法による単結晶育成炉を試作し、LaB6単結晶ナノワイヤの最適育成条件を確立している。触媒、雰囲気ガスの制御、反応温度を最適化し、ナノワイヤの直径を30〜200nmに制御可能となった。50〜100nmのLaB6単結晶ナノワイヤをピックアップし、特性を計測・評価した。透過型電子顕微鏡の観察では、損傷のない完全な単結晶であることが確認され、比抵抗、弾性率、硬さは、従来の電子源のタングステン(W)を大きく上回る特性を示した。
(2)LaB6単結晶ナノワイヤ電子源作製プロセス
耐熱金属支持針として、W針の先端にテラス状の平坦部を設け、これを支持針とし、テラス上にLaB6単結晶ナノワイヤを接合させて電子源とした。WとLaB6との反応を防ぐため、テラス面にカーボン蒸着し、その上にナノワイヤを配置し、さらにその上にカーボン蒸着を行い、サンドイッチ状にして接合させた。この電子源作製プロセスには、ナノワイヤをピックアップ、移動、配置、位置制御が必要で、ナノマニピュレータシステム及びファンデルワース力を利用したナノワイヤ制御方法を開発し、ナノワイヤ電子源作製全体システムを完成させた。電子源の熱的及び機械的安定性を電子顕微鏡内で調査し、使用中の温度上昇や電界による応力に十分耐えることを確認した。
(3)LaB6単結晶ナノワイヤ電子源の表面清浄化処理技術
電子銃として使用する場合、電子源表面が汚れ、残留ガスとの反応により変質してしまう。それを避けるため電子源表面のクリーニング方法を開発した。使用前の処理として、電子源表面の電界蒸発を行った。試作した電界放射特性評価装置を用い、電子源に高電圧を負荷し、表面最外層の原子を蒸発、除去した。表面が清浄化し、電界放射される電子は高輝度となった。この電界蒸発の雰囲気をHeとすると、電子源表面の(100)面にLaが拡散、あるいは残留し、高輝度の電子を放射することを発見した。電子源の高性能化や安定化に繋がる発見である。電界蒸発法とLaの電子源表面最外層被覆により、電子源の清浄化と安定性を格段に向上させることができている。長時間使用による汚れは避けられないので、フラッシング処理は必要と考え、通常の1000℃以上のフラッシングは電子源の性能を劣化させるので、中間温度域(660℃)でのフラッシングを行った。中間温度域でのフラッシングにより、電子源を劣化させずに清浄化している。
V.評 価
ナノテクノロジーを支える分析装置である電子顕微鏡や電子線描画装置の性能向上の鍵となる、電子銃の輝度向上、細束化を目指し、LaB6を用いて高性能の電子源を開発することを目的とした要素技術開発である。CVDの成長条件の最適化による(100)方位を持つLaB6ナノワイヤ作製技術、カーボンによるサンドイッチ構造を用いた電子源作製技術と電子源の表面清浄化技術、の開発に成功し、全ての開発目標を達成している。以上のことから、本開発では、当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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