資料4

開発課題名「超音波計測連成解析による超高精度生体機能計測システム」

機器開発タイプ(領域特定型)
【応用領域】ハードウェアによる計測限界を突破するためのコンピュータ融合型計測分析システム

開発実施期間 平成18年10月〜平成24年3月

チームリーダー :  早瀬 敏幸【東北大学 流体科学研究所 所長】
サブリーダー :  小杉 隆司【(株)アールテック 代表取締役】
中核機関 :  東北大学
参画機関 :  (株)アールテック、東北大学(情報シナジーセンター、大学院医工学研究科)
T.開発の概要
小動物を用いた心臓循環器系の先端研究において、超音波計測結果との連成解析手法を開発し、循環器系疾患の機序や治療法の解明に不可欠な血流の3次元構造や壁せん断応力などの血流情報の精度を飛躍的に向上させる。本計測技術開発により、循環系や癌の先端研究が大いに進展することが期待される。
U.事後評価における評価項目
(1)計測連成シミュレーション
 流れ場の計測融合シミュレーション技術を基に、超音波計測結果からの解析領域抽出法、血管の構造計算アルゴリズムの構築、構造計算の計測融合シミュレーション手法、流体と構造の連成計算法を開発し、すべての性能値を達成した。フィードバック信号に基づくモデル適応機構の開発については、血流量の自動推定と血管の弾性パラメータの自動推定を実現した。また、カラードップラー計測データを取得する機能を開発することにより、血管断面変形と血流速度変化の位相を正確に計測することが可能となり、当初の予定を上回る成果を得た。
(2)データ処理とインタフェースの開発
  対話型で可視化するソフトウェアを開発し、これらの情報をコンパクトな形でユーザーに提示する目標を達成した。さらに複雑な生体内流れを効率的に解析するための手法として、渦度の表示、自己組織化マップの解析結果の表示機能を開発した。また、超音波計測機器、制御用パソコン、スーパーコンピュータ(スパコン)および計算サーバ間のインタフェースを構築し、これらを同期させて超音波計測連成シミュレーションを実現するソフトウェアを開発した。当初の目標には挙げていなかったが、コモディティネットワーク機器として安価に製品化され、今後も継続的な性能向上が期待出来るインフィニバンド用のインタフェースも開発し、その有効性を実証実験により確認した。
(3)検証実験
超音波計測装置については、データ同期に必要な制御プログラム、制御用パソコンについては、センサ制御、融合計測ポスト処理をシステムに取り込んだ。スパコンに関しては、ユーザーインタフェースのGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)部分の開発を行った。さらに、スパコン以外の計算サーバとしてワークステーションやパソコンで行うことも可能な汎用性のあるシステムを構築した。このシステムを用い、マウスの頸動脈5例、ヒトの指の小動脈5例、およびPVAハイドロゲルモデル血管5例を用いた検証実験を実施した。3次元血管形状の再構築結果および血流速度場の解析結果、血管変形の解析結果について、超音波計測結果との比較を行って開発システムの解析精度を評価した結果、当初目標とした解析精度を上回る結果が得られた。なお、当初計画では、浮腫や転移に重要な役割を担うリンパ管内のリンパ液の流れ解析を検証実験項目に加えていたが、ナノバブル造影による超音波計測実験を行った結果、リンパ液の流速は非常に遅く、本開発システムの測定対象範囲外にあることが明らかになったため、本項目の検証実験は実施しなかった。
V.評 価
マウスやラットのような小動物を対象として、スーパーコンピュータを用いた連成解析により、従来の10分の1の精度で血管壁の位置を特定し、血流のリアルタイム解析を行う計測機器およびシミュレーターシステムを目標とした開発である。流れ場の計測融合シミュレーション技術を基に、血管の構造解析アルゴリズムを構築し、目標とした空間分解能10ミクロン、時間分解能10msを達成した。この結果、人の指の小血管の鮮明な超音波画像を得ることができ、血流速度や血管断面形状などを測定することが可能となった。今後はより多くのデータを積み重ね、基礎研究に用いる機器、さらには臨床用機器への展開を期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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