資料4

開発課題名「4枚の非球面ミラーを用いた結像型硬X線顕微鏡の開発」

(平成22年度採択:要素技術タイプ)

チームリーダー :  松山 智至【大阪大学大学院 工学研究科 助教】
中核機関 :  大阪大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
非球面ミラーを形状精度1nm レベルで作製し、これら4枚を高精度に組み合わせることで、硬X線領域において高い分解能を実現するアクロマティック結像光学系を構築し、これによって結像型硬X線顕微鏡を開発する。本顕微鏡によって試料内部を二次元(もしくは三次元)で高分解能観察しながら、同時にX線分光分析を行うことで、試料の形状だけでなく状態をも調べられる新しいX線顕微分光法が開拓されるものと期待される。
U.中間評価における評価項目
(1)高精度かつ超平滑な非球面ミラーの作製
 高度化した数値制御EEM(Elastic Emission Machining)装置の加工パラメータを最適化し、高度化したスティッチング干渉計の再現性・確からしさ等の基礎データを用いて、2枚の双曲ミラー(長さ60mm,30mm)と2枚の楕円ミラー(長さ200mm,130mm)を試作し、すべてのミラーが形状誤差 2nm p-vを持つことを確認した。マイクロラフネスを測定したところ、約0.2nm rms(64×48μm2領域において)以下であることを確認し、1mm〜1μmのラフネスは約0.4nm rmsであり、すべてのミラーで目標とする値を達成した。
(2)高精度アライメントシステムの開発
 波動光学に基づいたシミュレータを開発し、本光学系に要求される許容アライメント誤差を調査した。また、これを用いて最適なアライメント手順を提案した。許容アライメント精度に基づいて、4枚のミラーに許されるおよそ全ての自由度である18(簡易な調整軸を合わせると22)の調整軸を持っているアライメントシステムを設計した。高精度な角度調整軸が必要である入射角(θ)、相対角(θr)は、弾性ヒンジとハーモニックギア搭載アクチュエータによって角度を0.2μradの分解能で調整でき、かつ、弾性ヒンジがハーモニックギアに与圧を与えるように工夫したことで、バックラッシュなしを実現した。試作機として一号機を作製し、この性能テストを実施した。性能テストの結果、4枚のミラーを高精度に並べられることを確認した。
(3)アライメント精度の解析とアライメント手順の確立
完成した4枚のX線ミラーと高精度アライメントシステム、on-site形状・スロープ計測装置(オートコリメータ、レーザー変位計、高精度ステージで構成)を用いてSPring-8 のビームラインにて結像実験を試みた。その結果、視野中心で42×46nm2(半値全幅(FWHM)、縦×横)のPSF(Point Spread Function; 点拡がり関数)が得られた。視野角から計算した視野は9.9(〜11.9)×16.9(〜20.3)μm2(縦×横)程度であった。これによって少なくとも50nm以下の分解能、10?m以上の視野を持つ結像光学系の構築に世界で初めて成功した。
V.評 価
電子顕微鏡では見ることができない厚い試料の内部を観察することが可能な硬X線顕微鏡に用いる要素技術の開発である。高精度X線ミラーを作製できる技術の確立と高精度シミュレータによる光学系の完全な理解(アライメント誤差の影響,視野特性など)、アライメントシステムの開発を進め、4つの目標をすべて達成した。さらに、計画を前倒しして、4枚のX線ミラーを完成させ、縮小結像ではあるが、50nmの分解能を達成した。また、X線ミラーを高精度(1nmレベル)に作製する技術は世界的に見ても大変難しく、技術的優位性をもち、将来性は高く評価できる。しかしながら、本技術の特許化、実用化の見通しが明確ではない。今後は本技術の早期実用化を見据え,より効果的かつ効率的に開発を進めるべきである[B]。


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