資料4

開発課題名「超伝導転移端センサによる革新的硬X線分光技術の開発」

(平成22年度採択:要素技術タイプ)

チームリーダー :  大野 雅史【東京大学大学院 工学系研究科 特任助教】
中核機関 :  東京大学
参画機関 :  なし
T.開発の概要
 高エネルギーX線領域での高エネルギー分解能エネルギー分散型分光技術は重元素の分析に有効な可能性を秘めた技術である。本課題では、核物質計量管理、保障措置への応用を念頭に置き、従来のゲルマニウム半導体検出器に比べ20倍以上優れたエネルギー分解能と高速性を有するフォノン計測を検出原理とする超伝導転移端マイクロカロリメータアレイ検出器を用いた超高分解能エネルギー分散型X線計測技術を開発し、革新的重元素微量元素分析を実現する。
U.中間評価における評価項目
(1)超伝導転移端マイクロカロリメータ(TES)を用いた硬X線検出素子の開発
 TES(Transition Edge Sensor)による100KeV程度の硬X線検出の実証を試みた。2種類の元素を用いて素子を試作し、実際に核物質を取り扱う施設でのMOX燃料*試料の計測を実施した。硬X線吸収帯にスズを用いた場合は吸収効率30%、鉛を用いた場合、吸収効率90%となり、マイルストーンは達成した。本試験に用いた試料から放出された放射線の大部分はアメリシウムからの60keVガンマ線であり、プルトニウムやマイナーアクチノイドからの放射線は放出率が低く、イベント数は少なかったが、100keV近傍の硬X線、ガンマ線も検出できた。また、エネルギー分解能は60keVの入射エネルギーに対して485eV程度で、目標値には至っていないが、冷凍機からの振動対策を行い、測定環境を改善し、最終目標は達成する見込みである。
*ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(Mixed Oxide)
(2)TESアレイ素子信号読み出しシステムの開発
 2chのdc-SQUID(Superconducting QUantum Interface Device; 超伝導量子干渉計)読みだし回路を構築し、試作した素子を搭載してその動作実証を行った。本回路は上記したMOX燃料試料の計測でも問題なく動作した。また、チームが保有している周波数分割型SQUIDマルチプレクサの試作機を用いて、デジタル回路でのSQUIDからの出力読み出しに成功している。今後、この試作回路を用い、試作TES検出器と組み合わせて動作実証を行う予定である。
(3)その他
東日本大震災で発生した福島第一原子力発電所の事故以降、高まってきている核物質の精密な非破壊検出技術の実用化を目指し、本技術で開発した素子の歩留まり率の改善が行われれば、極低温冷凍機等と組み合わせたシステム一式としての実用化を検討する。
V.評 価
既存のゲルマニウム検出器では計測できないアメリシウム、ネプツニウム、プルトニウムを検出可能な超伝導転移端マイクロカロリメータ検出器の開発、およびその実証を目的としている。開発はほぼ順調に進捗し、試作した素子の検出効率は中間目標値を越えて達成している。エネルギー分解能については目標値に一歩及んでいないが、冷凍機からの振動等、原因を特定して対策を講じつつあり、最終目標は達成する見込みを得ている。本検出器で用いている冷凍機の振動等の問題は、他の放射線検出器の開発を行う研究者にも共通する問題であり、効率的な開発のためには関連した研究者との積極的な意見交換を行うことが望ましい。本開発は原子力発電所の事故対策への適用技術としても期待が大きく、早期の実用化を見据えてターゲットを絞りつつ着実に開発を進めるべきである[A]。


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