資料4

開発課題名「実用三次元スピン回転偏極ビーム装置の開発」

(平成22年度採択:機器開発タイプ【領域非特定型】)

チームリーダー :  越川 孝範【大阪電気通信大学 工学部 教授】
サブリーダー : 後藤 修一【サンユー電子(株)代表取締役社長】
中核機関 :  大阪電気通信大学
参画機関 :  サンユー電子(株)
名古屋大学
T.開発の概要
 本プログラム「要素技術タイプ」で得られた成果をもとに、スピントロニクスにとって重要な磁性薄膜の高性能化を行うために、高輝度・高偏極・長寿命かつ三次元に自在にスピン方向を操ることができる従来よりコンパクトな「三次元スピン回転偏極電子ビーム装置」を開発し、低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)に搭載して高分解能・高速磁区観察を実現する。本開発により、透過電子顕微鏡などの他の機器にも搭載でき、大きな広がりをもつ可能性を持っている。具体的には、今まで2機で行ってきた三次元スピン回転を1機で行う新しい「スピン回転器」の提案を行うなど、機器の実現を図る。
U.中間評価における評価項目
(1)多極子三次元電子スピン回転器の設計と製作
 当初12極子を予定したが、電子スピン回転器を電子顕微鏡等の機器へ取り付けることを想定した場合を考慮し、8極子への変更を検討した。電子光学シミュレーションの結果、8極子でも実用的に問題がないことが判明したため、これを踏まえて基本設計図を完成し、主要な加工部品、組み立て治具を作製した。年度内に製作を完了し、評価試験を開始する予定である。
(2)電子光学系制御システムの設計と製作
 8極子ウイーンフィルターについては、コイルを真空外に設置し、真空チャンバーを介して真空中の磁極とカップリングする方式をとった。ウイーン条件を満たすため、磁気シールドと8極子の形状について検討した。電子光学シミュレーションの結果を踏まえてこれらの形状を決定・製作した。これに加え、装置の小型化に必要となるアインツェルレンズ内に組み込む小型静電変更器の設計・製作も行った。完成したシステムの安定度、分解能とも達成目標値を上回った。
(3)カソードの量子効率向上
従来型の歪超格子フォトカソードの量子効率が低い原因が中間層のガリウム−ヒ素(GaAs)にあるため、これをアルミニウム-ガリウム-ヒ素(AlGaAs)に置換した。また、ガリウム-りん(GaP)基盤裏面へ窒化けい素(SiN)反射防止膜を形成した。これらを踏まえて改良したフォトカソードの特性評価を行い、785nmにおいて約0.4%の量子効率となり、従来型の4倍の量子効率を得ることができた。
V.評 価
 本プログラム「要素技術タイプ」において開発されたスピン偏極電子源の成果を基本技術とし、高性能化・小型化を図り、透過電子顕微鏡等の機器へ取り付け可能な機器の開発である。当初、12極子のスピン回転器を予定していたが、詳細な電子光学シミュレーションの結果、8極子でも十分に実用に足る性能を得られることが判明し、装置の小型化に成功している。また、フォトカソードも中間層に用いる材料の変更により、量子効率が向上するなどの成果を上げたことは評価に値する。今後は本装置の性能評価および対応機器における実証試験を積み重ね、本成果が早期に実用化するよう、今後も開発を着実に推進するべきである[A]。


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