資料4

開発課題名「超高速・超解像1蛍光分子顕微鏡システムの開発」

(平成22年度採択:機器開発タイプ【領域非特定型】)

チームリーダー :  楠見 明弘【京都大学 物質−細胞統合システム拠点 教授】
サブリーダー : 竹内 信司【(株)フォトロン イメージング部開発グループ
新市場製品開発チーム チーム長】
中核機関 :  京都大学
参画機関 :  (株)フォトロン
T.開発の概要
 本課題では、生きている細胞内の構造体と分子挙動を理解するために、生細胞中の1分子毎の位置・動き・活性化・結合を、手に取るように観察可能で、かつ生細胞を、電子顕微鏡並みの空間分解能で観察可能な蛍光顕微鏡システムを開発する。1分子観察を分子の個数回で繰り返すことで、光回折の壁はなくなることが見込まれる。
U.中間評価における評価項目
(1)1蛍光分子追跡専用CMOSセンサーユニットの開発
 まず一次サンプルチップを開発して評価し、改善点を洗い出した上で開発仕様を取りまとめた。一次サンプル時点では、量子効率59%、感度15V/ルクス・秒、信号出力線形範囲(0〜90%での線形性)+0.8%、-0.9%、ダイナミックレンジ54dBとなった。いくつかの数値は達成目標にまで至っていないが、アナログ・デジタル変換器の動作点調整、非線形性の解消、並列処理回路の改良等で最終目標を達成するチップを開発できる見込みを得た。
(2)カメラシステムの実地性能試験
 既設のカメラにペルチェ素子による長時間安定冷却機構を組込み、超解像システム(PALM)に対応するための光学系の改良、アルゴリズムの検討を行った。イメージセンサとイメージンインテンシファイア部の冷却機構については、-15℃以下で±1℃、1日以上の長時間安定冷却を可能とし、目標を達成した。このカメラを用い、細胞膜中の蛍光標識りん脂質を用いて1蛍光分子追跡を試み、100マイクロ秒分解能でも有機蛍光分子Cy3の1分子輝点は検出可能で、1分子を数百フレームにわたり追跡可能であることを示した。また、りん脂質のブラウン運動の観察結果から、細胞膜には、基本分子のりん脂質にも働く仕切りがあり、りん脂質分子が仕切られた小部屋に10ミリ秒程度閉じこめられ、隣りの小部屋にホップするという学術的に画期的な発見をした。
(3)テラヘルツ照射による蛍光プローブの発光量子制御技術の開発
高感度でテラヘルツ波による制御を行うために必要なテラヘルツパルス発生系、テラヘルツ波照射イメージ取得系を構築し、サンプルホルダー面で約300kV/cmのテラヘルツ波照射に成功した。これを用い、テラヘルツヒーリング効果を示す蛍光プローブを探索している。
V.評 価
 生細胞中の構造体、分子挙動を高い空間分解能で観察可能な蛍光顕微鏡システムの開発である。開発は順調に進捗しており、1蛍光分子を追跡するためのCMOSセンサーチップの試作から、改良点を洗い出し、最終目標性能値を達成できる見込みを得ている。加えてカメラの冷却機構を開発し、既存の機器に取り付けて、細胞内のりん脂質分子挙動に関する学術的に目覚ましい発見をした点は注目に値する。今後は改良したセンサーチップ、カメラ制御のソフトウェア等を仕上げるとともに、テラヘルツ波照射機構を組み上げ、早期に実用化するよう、開発を着実に推進するべきである[A]。


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