資料4

開発課題名「スピンプローブを用いたESR生体計測技術」

要素技術タイプ

開発実施期間 平成20年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  山中 千博【大阪大学大学院 理学研究科 准教授】
中核機関 :  大阪大学
参画機関 :  (株)キーコム
NPO法人アガペ甲山医学研究所
北里大学
九州大学
T.開発の概要
表面検知型の高感度電子スピン共鳴(ESR)共振器の完成を目指す。特にマイクロストリップライン共振器に着目し、その素子先端におけるevanescentな電磁場を用いる技術の可能性を追求する。最終的にはこの要素技術を用いて小型軽量のESR装置を開発し、これを生体ラジカルの連続観測装置、in vivo 被曝線量測定装置、小型ESR顕微鏡・イメージングデバイス、宇宙衛星搭載機器といった幅広い応用計測に向けて役立たせる。
U.事後評価における評価項目
(1)生体投与したスピンプローブを効率的に体表から測定可能な新しいESR装置要素技術の開発
 表面コイル及びピンホール型共振器とマイクロストリップライン(MSL)型、同軸型を作製し、性能比較を行った。MSL型では端面型と平面型を製作し、また、その後同軸型を作製した。いずれも試料内スピン数1013台の測定をS/N=10以上(積算なし)で達成し、表面コイル型、ピンホール型より高い性能を示すことを実証した。MSLライン型では、電場広がりが含水試料などに相互作用し、電磁場のロスを生む問題が生じたが、同軸型では遮蔽効果を用いてこの問題をクリアし、水溶液中TEMPOラジカルを1013で測定できることを実証した。
(2)生体スピン(TEMPOL)導入後の生体内緩和の評価
マウスにTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)試薬を注射後、通常のESR測定を実施し、注入後20〜30分後の範囲でESR測定が可能であることがわかった。また、採血したヒト血液中に100mM/L濃度のTEMPO試薬を導入して測定しても同様であることがわかった。マウスに対しては、100mM/LのTEMPO試薬を50μL注射しても特に異常な身体兆候は示さなかった。これらのことから、TEMPO試薬を生体用に使用する問題点は見つからなかった。また生体模擬用ファントム材料としてアクリルアミドゲルおよびポリビニルアルコールを用いて、真皮領域の含水率60〜80%を模倣できる材料を製作し、ラジカル溶液を使用したファントムを作製できた。
(3)その他
  MSL共振器の電磁場シミュレーションを行い、外部空間のマイクロ波電場の広がりが大きく、周辺材料や含水試料と相互作用するため、電磁場損失を招き、生体用機器としては問題があることが判明した。そのため、定在波の部分の電磁場遮蔽がブリッジ部以外十分にできる同軸型の作製を考慮し、シミュレーションをもとに設計・製作を実施した。この結果、ギャップ部分の正確な加工と位相調節器のバランス調整が重要であることがわかった、これらの結果から、液体試料に対してESR測定可能な同軸共振器を完成できた。
V.評 価
体表面からの測定を可能とする高感度電子スピン共鳴共振器および生体に用いることができるスピンプローブの開発を目的とした要素技術開発である。当初予定していたマイクロストリップライン型共振器では電磁場損失が生じ、生体を対象とした測定器としては問題があることから、同軸型の開発へと方向性をシフトし、試作機を完成している。しかし、最終目標まではまだいくつものハードルがあり、今後さらにデータを積み重ねる必要がある。また、原理検証を行う試作品についてもハンドメイドとなっており、実地応用するに当たっては、ものづくり企業の協力を得て信頼性・再現性を高める努力が必要と考えられる。本開発は、中途のマイルストーンのすべてを達成したものの、実質的な生体応用については目標を期間中に達成できなかったと評価する。今後、生体応用の点で具体的なターゲットを定めつつ、本開発で得た知見も活用し、着実な開発を進められることを期待したい[C]。


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