資料4

開発課題名「ナノスケール高周波磁場検出・磁気力顕微鏡」

要素技術タイプ

開発実施期間 平成20年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  齊藤 準【秋田大学 工学資源学研究科 教授】
中核機関 :  秋田大学
参画機関 :  秋田県産業技術センター
T.開発の概要
高密度磁気記録媒体などの微細磁化状態の評価に現在広く用いられている磁気力顕微鏡をベースとして、新たに見出した交流磁場印加により磁性探針に発生する探針振動の周波数変調現象を利用したナノスケール高周波磁場検出・磁気力顕微鏡を開発する。目標スペックは空間分解能が10nm、最大検出周波数が数MHzである。開発する顕微鏡は高密度化・高周波化が進む次世代高度情報デバイスなどの研究開発に有用なツールとなる。
U.事後評価における評価項目
(1)計測システムの簡易試作(高周波磁場検出・磁気力顕微鏡システム)
 磁気ヘッドの高周波磁場及び高周波磁性薄膜の複素磁化率の計測が可能な計測システムの開発に成功した。交流磁場の周波数に合わせて低周波用と高周波用に実現可能な2種類の方式で機器構成を設計し、磁気記録ヘッドを用い、交流磁場印加による探針振動の周波数変調を、マイルストーンに設定した動作周波数600kHzに対して1.7MHzまで実証した。磁場印加機構は動作周波数600kHz以上に対して試料面内に平行方向の磁場を発生できるよう、フェライトリングコア型励磁源を試作し、1.7MHz程度までの範囲で探針振動に周波数変調を発生させることを確認した。これらの機構を計測システムに組込、汎用制御ソフトで計測条件を最適化した。
(2)計測システムの評価
試作システムを用い、汎用磁気ヘッドの計測を行ったところ、マイルストーンに設定した空間分解能10nm以下、時間分解能600kHz以上に対して、それぞれ7nm程度、1.7MHz程度を達成した。また、汎用ではない磁気ヘッドについて交流磁場計測を行ったところ、従来のハード磁性探針では探針の形状を反映して磁場像が歪むことがわかったので、これを解決するため、探針先端磁極が点対称性を有する円錐形状磁性探針を地元企業と共同で開発し、空間的歪みのない交流磁場像を観察することに成功した。また、次世代プレーナー型単磁極ヘッドに用いられる高周波磁性薄膜を評価し、複雑な励磁コイルがない場合でも磁気記録ヘッドの磁極部分の評価を行えることを実証した。さらに複素磁化率の評価に適する解析手法の検討により、高周波磁性薄膜中の磁気モーメントの回転に伴い発生場所が変化する交流磁場のストロボ観察を実現した。
(3)その他
  これまで困難であった試料表面近傍での直流磁場計測ならびに磁場のベクトル解析も可能としたことで、直流磁場から交流磁場まで広い範囲で試料表面近傍での高感度・高分解能計測手法を見出すことができた。これらの成果により、本技術に興味を示す企業の応用ユーザーが増え、現在、磁気ヘッドメーカー、磁気記録媒体メーカー、磁気テープメーカー、電気自動車用の永久磁石材料開発を行っている自動車メーカーと別途共同研究を実施している。
V.評 価
磁気ヘッドなどの磁気デバイスのキャラクタリゼーションに用いる汎用機器である磁気力顕微鏡を、交流磁気力による探針振動の周波数変調の活用などの開発チームが有する新規のアイディアで高感度化し、新しい機能を付加した装置の開発である。開発は順調に進捗し、当初掲げた目標を達成し、本技術に興味を示した多分野にわたるメーカーと共同研究が進んだことは高く評価する。中国の大学との共同研究により、がんの温熱治療用磁性粒子の研究も行われている。ただし磁気デバイス等の開発は5年程度の期間で実施されるものであるので研究開発に資するため、本成果は興味を示すユーザーとともに、早期に実用化を目指して開発を進めることを強く期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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