資料4

開発課題名「バイオ技術による迅速・高感度・簡易アスベスト検出キット開発」

要素技術タイプ

開発実施期間 平成19年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  黒田 章夫【広島大学大学院 先端物質科学研究科 教授】
中核機関 :  広島大学
参画機関 :  DSファーマバイオメディカル(株)
T.開発の概要
安全な社会構築のため、アスベストの迅速・高感度・簡易検出技術が求められている。現在、アスベストの検出は、位相差顕微鏡による方法が最も多用されているが、アスベスト繊維の判定が難しいという問題や超微細アスベストは検出できない等の問題がある。電子顕微鏡やX線を利用した方法は優れた方法であるが、高価で時間のかかる方法であり、簡易法とはなり得ない。標記開発チームではアスベストに結合するタンパク質を発見した。本課題では、アスベスト結合タンパク質を用いた迅速・高感度・簡易アスベスト検出キットの開発を行う。
U.事後評価における評価項目
(1)アスベスト検出の高感度化
 アスベスト結合タンパク質(DksA)と牛腸由来アルカリホスファターゼ(CIP)と結合させたDksA-CIPおよび発光基質を用いる事でフィルター上の1ngのクリソタイルを検出する事が可能となり、従来に比べて1,000倍感度を向上させることに成功した。また、DksAをCy3(蛍光色素)で蛍光標識し、アスベストと結合させ、蛍光顕微鏡で観察したところ、アスベスト繊維を非常にクリアに観察でき、位相差顕微鏡では検出不可能な数十nmのクリソタイル単繊維が蛍光によって検出できた。
(2)クリソタイル以外のアスベストの検出
大腸菌タンパク質の中からアモサイト、クロシドライトに結合するタンパク質GatZを発見した。アルカリホスファターゼ(AP)を融合させたGatZ-APを作製し、アモサイト、クロシドライトを対象としたところ、10ngのアモサイト、クロシドライトを検出することができた。また、このGatZ-APを用いることにより、今まで検出できなかったロックウール中の1%のアモサイト、クロシドライトが検出可能となった。DksA-Cy3とフルオレセインで蛍光修飾したGatZを用いることで、クリソタイルは赤に、アモサイト、クロシドライトは緑色に蛍光染色できることが判明した。これにより、同一視野で繊維の識別を可能とした。
(3)試薬キット化および大量生産ラインの検討
  DksAの大量生産方法を確立し、蛍光顕微鏡を用いたアスベストの蛍光検出法の確立を行い、キットを試作した。このキットと可搬型蛍光顕微鏡を組合せ、解体現場でもアスベストを検出できるシステムを構築した。実サンプルを用いたシステム評価を実施し、改良を加えた。本キットはシリコンバイオ社にライセンスして販売を開始した。また、本キットを用いた計測法は環境省アスベストモニタリングマニュアル第4版(平成22年6月)に解体現場の迅速計測法として紹介された。
V.評 価
アスベストに結合するタンパク質を利用して、解体現場等で迅速、高感度かつ簡単にアスベストを選択性高く検出できるキット開発を目的とした要素技術の開発である。開発は順調に進捗し、新たに開発した蛍光標識手法により従来法の1,000倍の高感度で迅速かつ簡単にアスベストが検出できるキットとして製品化され、すでに普及が始まるとともに、環境省のマニュアルにも紹介されるなど、当初の予想を超えた成果を挙げている。今後は、この優れた方法を標準化・公定法として制定されるよう、さらなる普及と社会還元が進むことを期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、これを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。


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