資料4

開発課題名「大気中・液中で動作する原子分解能分析顕微鏡」

機器開発タイプ(領域非特定型)

開発実施期間 平成17年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  粉川 良平【(株)島津製作所 分析計測事業部 プロダクトマネージャー】
サブリーダー :  山田 啓文【京都大学大学院 工学研究科 准教授】
中核機関 :  (株)島津製作所
参画機関 :  京都大学
大阪大学
神戸大学
北陸先端科学技術大学院大学
金沢大学
T.開発の概要
大気中や液中などの環境下において、金属、半導体、絶縁体、有機材料などの構造・機能物性評価が原子・分子スケールで可能な原子分解能分析顕微鏡を開発する。本開発では、熱ドリフトの影響を補正するアトムトラッキング技術や試料表面の特定位置の電子状態を分析するバイアス・フォースカーブ技術等の要素技術を開発し、原子・分子分解能での表面原子・分子の組成、電荷移動、結合状態などに関する知見を与える分析顕微鏡を実現する。
U.事後評価における評価項目
(1)プロトタイプ機の設計 
 市販装置の安定性を評価した上で、変位検出系の広帯域・低雑音化、周波数復調器の高感度化を図った。光てこ光学系および光検出電子回路系の最適化・低雑音化を行なうことで変位換算ノイズ密度 7fm/√Hz以下とし、二次共振周波数への適用も可能な検出帯域2MHzを達成した。また、測定帯域を10kHz以上に拡大し、周波数検出用PLL(位相ロックループ)回路内の各要素の回路特性および回路パラメータの最適化を行なうことで、周波数検出感度0.01Hz/√Hzを達成した。これらの技術を組み込んだエンジニアリングモデルを製作し、各参画機関においてアプリケーション開発を促進した。
(2)実環境AFMへの組込
  FPGA(Field-Programmable Gate Array)による三次元同時フィードバック、アトムトラッキングによる位置追跡及びフォーススペクトル測定機能を開発し、これらをAFMへ組み込んだ。その結果、探針は0.04nmで振動可能となり、熱ドリフトでは1nm/minの応答性を達成した。また、0.01nmのトラッキング精度を達成した。加えてデータ処理系の改良により測定点を1,024点、測定時間3sec/本とし、0.01nmの位置精度での測定が可能となった。
(3)その他
これらの要素技術に加え、Siナノピラー探針の調製方法を確立し、加熱ホルダーをとりつけることで装置につけたまま1,000℃の加熱を可能とした。合わせてソフト、回路系を改良して検出感度0.1Hzのバイアスフォース法を確立した。
V.評 価
液中、空気中において原子分解能で動作するAFM装置の実現を目指してQ値の向上、熱ドリフトの補正など、我が国を代表する研究者を共同開発者に取り込み、各研究者の持つ秀でた要素技術を一体化し所定の目標を実現している。しかし、AFMは原子レベルでの原子間斥力と引力の相対的な力の関係を計測するもので、溶液中の原子や分子を取り扱う複雑系においては、より多くの具体的な系につき、実験データ・理論解析を積み重ねていく必要がある。今後、本装置を用いて、さらなる実験データを積み重ねた結果、世界ナンバーワンの性能をもつ装置が製品化されることを期待したい。本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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