資料4

開発課題名「質量分析計(MS)による多項目同時臨床検査技術の
包括的開発に関する調査研究」

機器開発タイプ(調査研究)

開発実施期間 平成21年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  小寺 義男【北里大学理学部 准教授、理学部附属プロテオミクスセンター
センター長】
中核機関 :  北里大学
参画機関 :  サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)
千葉大学
ニットーボーメディカル(株)
(独)産業技術総合研究所
T.開発の概要
血清・血漿を対象とした質量分析計による多項目同時臨床検査の具現性を明示する目的で、血清・血漿に含まれる疾病マーカーを質量分析計で定量分析するために必要な前処理技術ならびに分析法に関する調査研究を行う。これにより、多検体を短期間で分析し、その結果に基づいた高精度かつ有用な診断法確立の可能性を探る。
U.事後評価における評価項目
(1)ペプチド定量分析のためのMS定量分析法の基礎的検討と多項目同時定量分析
 独自のペプチド抽出法とSRM法*を組み合わせて9種の診断マーカー候補ペプチドに対し、MS定量分析法(スループット:70血清/日)を構築し、安定同位体標識ペプチドを含む18種類のペプチドの同時定量分析法を確立した。この方法で120血清を自動分析し、連続測定の可能性、安定性の実証とともに、2種類のペプチドが大腸癌の診断マーカーである可能性を確認した。ここで開発したMS定量分析法はMS診断法のプロトタイプであり、そのまま、MS診断に応用できる。既にHPLCのカラムスイッチングの導入により1日約140血清の迅速分析の目処が立っている。
* SRM法(Selective Reaction Monitoring法):定量性の高い三連四重極質量分析計を用いた定量分析法
(2)疾患特異的なタンパク質のMS定量的分析法の確立と検討
 探索した診断マーカー候補タンパク質のMS定量分析法を構築し、その方法が抗体を使った定量分析法(ELISA)と同等の再現性、定量性であることを検証した。
(3)血清以外(組織、培養細胞とその培養上清等)で探索された診断マーカー候補の診断応用(定量分析)が可能であることの実証
 2種類のタンパク質について病気特異的な翻訳後修飾部位を探索するためのMS定量分析法を構築し、健常者血清を用いて分析可能性を確認した。多検体の分析についてはマシンタイムの状況から断念し、必須検査項目であるビタミンDのMS分析法確立と多検体分析を代わりに実施した。
(4)その他
従来の血清の前処理法(高存在量タンパク質除去法)とは異なる原理で、複雑な血清中のタンパク質を分画するための簡便でスループットの高い方法の開発に成功した。また、ビタミンDをハイスループット(350サンプル/日)で定量分析するためのMS定量分析法を構築。定量性、再現性が非常に高いことを実証した。さらに、患者血清を含む40血清に応用した。
V.評 価
本調査研究は、独自の血清の前処理法と三連四重極質量分析計を用いた定量分析法を組み合わせた疾病マーカーの定量分析法を臨床診断・検査に応用するため、この方法の利点、必要性、具現性を検討することを目的としている。本調査研究は順調に進捗し、単なる調査に留まらず、実験を含めて実証データを出し、抗原抗体反応を基盤とした現状に対し、パラダイムシフトを起こす可能性を示したことは大いに評価できる。一方、この診断・検査方法を実施するための前提となる試料の前処理操作が煩雑で、実現のためには踏み込んだ検討が必要である。これらの点を踏まえて、「質量分析による次世代の臨床検査プラットフォーム」のような、従来概念を覆す枠組みの構築が行われることを期待したい。


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