資料4

開発課題名「認知症の早期スクリーニングのための
計測分析システムに関する調査研究」

機器開発タイプ(調査研究)

開発実施期間 平成21年10月〜平成23年3月

チームリーダー :  伊藤 英則【(株)島津製作所 産学官・プロジェクト推進室 嘱託】
中核機関 :  (株)島津製作所
参画機関 :  名古屋工業大学
(独)国立長寿医療研究センター
(株)イフコム
T.開発の概要
認知症の早期スクリーニングのための計測分析システムの基本原理と基礎アルゴリズムを開発し、本システムの市場性・ニーズの調査研究を行う。音声韻律の特徴を解析する認知症計測分析システムと、fNIRS(functional NIRS、機能的近赤外線分光法)の融合により、認知症の観察型評価尺度CDR(Clinical Dementia Rating、臨床的認知症尺度)と高い一致度を有するシステム実現の可能性を明らかにする。
U.事後評価における評価項目
(1)音声/NIRS融合型課題開発(生体信号計測時に被験者に提起する課題検討及びデータ採取)
 被験者の課題回答時の反応が音声/NIRSデータに有効に表出することを目的として、生体信号計測時に被験者に提起する課題について検討し、計102例の健常者及び認知症患者から実際の認知症診断で用いられるCDRデータと音声/NIRSデータを同時採取した。
(2)音声による認知症スクリーニングの実施
 音声/NIRSに含まれる様々な特徴量を抽出するためのソフトウェアを開発し、音声データ及び臨床データに相当する長谷川式簡易評価スケールデータ並びに音声スクリーニングの技術を用いて予備実験を実施した結果、音声韻律と長谷川式簡易評価スケールとの間に高い相関関係(R=0.77)が示され、音声韻律特徴と認知機能障害の間に何らかの関連があることを示唆する結果が得られた。
(3)音声/NIRSスクリーニングアルゴリズム開発
 本調査研究開始当初から想定していた仮定「回想法課題とワーキングメモリー課題実施時に、前頭前野部及び後部帯状回楔前部の脳血流の変化において健常者と認知症患者では有意な差が現れる」に基づき、上記(1)で開発した課題のうち、回想法課題2(話す)とワーキングメモリー課題1(カテゴリー想起)実施時の脳血流の変化をt検定により解析した結果、当初想定通り、健常群/軽度認知障害(MCI)群/軽度認知症(AD)群の3群間に有意差が認められた。さらに、頭部から採取したNIRSのデータが非常に膨大かつ高次元であるため、これを簡易に処理できる統計解析のプログラムを作成した。専門医による認知症の医学的診断を実施した高齢者の音声データを採取し、48名(軽度認知障害(MCI)群23名、健常群25名)を対象とした2群判別を予備的に検討した結果では、感度74.24%/特異度74.63%と軽度認知症のスクリーニングの精度としては従来汎用されている認知症のスクリーニングツールでの軽度認知症を判別する精度を上回る結果を得た。
(4)音声/NIRS認知症スクリーニングシステム開発(試作)
上記の「特徴量抽出ソフトウェア開発」、「相関分析」、「スクリーニングアルゴリズム開発」を融合することにより、未知の脳血流(NIRS)データと音声データから、認知症の危険度を示す認知症スクリーニングの結果をアウトップトすることができる"認知症スクリーニングシステム"を試作することができた。
V.評 価
成長型ベイジアンネットワーク方式を用いて、音声の韻律特徴とNIRSの各測定部のデータから認知症専門医が診断に使用する臨床的認知症尺度と高い一致度を有する認知症の早期スクリーニングのための計測分析システムの開発を目的とした調査研究である。調査研究は順調に進捗し、臨床データを収集・解析することにより本手法の有用性を実証したことは大いに評価したい。一方、健常群及び軽度認知障害群とも正答率が低いことや音声/NIRSデータの対象とすべき時間的な範囲の選択基準などが不明確であることなど、さらなる検討が必要である。これらシステムの有用性を決定する項目について改善あるいは明確にした上で、本格的な機器開発が進められることを期待したい。


前のページに戻る