資料4

開発課題名「多分子ライブイメージングを可能とする蛍光プローブの開発」

(平成21年度採択:要素技術プログラム【一般領域】)

チームリーダー : 廣瀬 謙造【東京大学大学院医学系研究科 教授】
中核機関 : 東京大学
参画機関 :  (なし)
T.開発の概要
 蛍光プローブを用いて分子を可視化する蛍光イメージング技術が近年注目されている。本開発では、観測対象分子に結合するタンパク質と蛍光色素の複合体からなるハイブリッド型蛍光プローブをハイスループットに作製する系を構築し、さまざまな色(蛍光波長)の蛍光プローブを迅速・簡便に作製する技術を開発する。この技術によって生きた細胞で複数の分子を同時にイメージングする技術を確立し、新薬開発や生命科学研究への貢献が期待できる。
U.中間評価における評価項目
(1)ハイブリッド型蛍光プローブ作製技術の確立
 高性能蛍光プローブを得るため、タンパク質発現プラスミドへのシステイン点変異導入、大腸菌の形質転換、大腸菌培養、タンパク質の発現・精製、蛍光色素の標識の一連の過程を96ウエルプレート上で実施可能なハイスループットスクリーニングシステムを確立した。この系を用いて、グルコース(18)、アラビノース(17)、グルタミン酸(26)、ATP(15)と相互作用するそれぞれのタンパク質について蛍光プローブを作製した。
(2)ハイブリッド型蛍光プローブ用の新規蛍光色素の作製
 イメージングに使用可能な新規蛍光色素として、12種類の新規蛍光色素を作製した。作製した色素は、光誘起電子移動を利用して設計した溶媒極性を検出するもの8種、蛍光色素内の構造安定性を利用したもの2種、タンパク質内pH変化を検出するもの2種類である。これらのうち4種類の蛍光色素については、実際にタンパク質に標識し、標識タンパク質とそのリガンドとの結合に依存して蛍光強度が変化することを検出した。
(3)その他
 蛍光プローブの有用性を検証する過程で、グルタミン酸受容体を標識した蛍光プローブが単一シナプスレベルでのグルタミン酸放出を検出できる感度を有することが明らかになった。この成果により、従来不可能であったシナプスの活性を個別に評価することを可能とする解析系の構築に成功した。また、脳スライス標本や個体標本において、シナプス間隙からのグルタミン酸の漏洩(スピルオーバー)があることを世界で初めて直接的に証明した。これらの成果は、作製した蛍光プローブが神経科学分野などでの技術的なブレイクスルーをもたらし、新しい知見を得る原動力として貢献できることを示すものである。
V.評 価
 観測対象分子に結合するタンパク質と蛍光色素の複合体から構成される、蛍光プローブを迅速かつ簡便に作製する技術と蛍光プローブを多色化する技術の開発を目的としている。開発は順調に進捗しており、中間評価時点の目標として定められたマイルストーンを全てクリアし、迅速な作製を達成した上で、目標を超える多数の蛍光プローブを開発したことは高く評価したい。今後はもう一つの「多分子ライブイメージング」に向け、ここまで培った成果を大いに活用し、積極的に開発を推進すべきである[S]。


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