資料4

開発課題名「近赤外レーザーを応用した安定同位体計測法の開発」

(平成21年度採択:要素技術プログラム【一般領域】)

チームリーダー : 戸野倉 賢一【東京大学環境安全研究センター 准教授】
中核機関 : 東京大学
参画機関 :  京都大学
理研計器(株)
T.開発の概要
 気体分子の安定同位体比を測定することにより、温室効果ガスの発生源に関する知見を得ることが可能であるが、従来装置では採取サンプルを持ち帰り、さらに前処理が必要であったため、現場でのリアルタイム測定は出来なかった。本開発では、近赤外レーザーを基盤とした新規な分光分析法による、前処理なし可搬型の大気微量ガスのリアルタイム同位体計測装置を開発する。地球温暖化防止に加え、医療現場における呼気分析による胃腸の健康診断・代謝診断など広い分野への応用が期待される。
U.中間評価における評価項目
(1)波長変調吸収分光可搬型計測装置の開発
 装置の1次試作を行い、その基本性能を評価した。PID制御により、ヒーターの温度制御を行い、セル部、サンプルガス部ともに35℃の制御温度に対して△T=0.1Kの安定性が得られた。また、分光データを基に吸収線の検討を行い、最終目標感度(20ppbv)を達成した。δ13C精度については、大気濃度レベルのサンプルガスに対してリファレンスセルを用い圧力制御をすることにより、数Kの温度変化の状況下でδの精度が3‰未満を達成した。これらを踏まえてマルチパスセル光学系の設計、排気系の設計製作、取り込みソフトの開発を行い、装置の設計図を完成し、1次試作品を完成した。装置サイズは目標値をクリアして小型化に成功した。
(2)メタン安定炭素同位体検出技術の確立
 フーリエ変換赤外分光装置を用いた13CH4のスペクトル測定結果とスペクトルデータベースの結果を合わせて検討し、12CH413CH4の回転線の分離が十分であり、一つのレーザー素子で検出できる波長域として、2.41μm域を見出した。また、CH4の検出については1.65μm帯の吸収線を選択し、検出下限17ppbvを達成した。δ13C精度については、28‰。となり、これも目標値を達成した。
(3)その他
 波長変調吸収分光可搬型計測装置の開発においては、当初は、高精度にδ13Cを測定するにあたり、温度制御のみを考慮していたが、リファレンスセルを用い、2台のセルの圧力制御をすることにより高精度にδ13Cを測定することが可能となった。
V.評価
 地球温暖化ガスである大気中の二酸化炭素やメタンを高感度に検出することができる機器を目指した分光装置の開発である。目的とする気体の検出に加え、安定同位体比からその気体の発生起源解析にも役立てることが可能である。開発は順調に進捗しており、中間評価時点の目標値は全てクリアしている。本装置にはチームリーダーが開発した長光路セル、ダブルセルが用いられており、これらが高感度化に不可欠となっている点は高く評価したい。今後は装置を実用的な機器にしていくために利用者の視点を踏まえ、応用開発を着実に推進するべきである[A]。


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