資料4

開発課題名「タンパク質−化合物複合体立体構造解析の自動化技術」

(平成21年度採択:要素技術プログラム【一般領域】)

チームリーダー : 楯 真一【広島大学大学院理学研究科 教授】
中核機関 : 広島大学
参画機関 :  (なし)
T.開発の概要
 従来の核磁気共鳴法(NMR)を用いたタンパク質−化合物相互作用解析では、化合物結合によりタンパク質構造変化が誘導される場合や、溶液中でのタンパク質立体構造が結晶構造と異なる場合などに正確なタンパク質−化合物複合体構造解析ができないという問題点がある。本開発では、タンパク質−化合物複合体の立体構造を高効率・高精度に決定するソフトウェアを開発する。これにより従来のNMRの限界を超える画期的構造解析装置の実現が期待できる。
U.中間評価における評価項目
(1)タンパク質複合体構造解析の自動化
 画像処理解析に良く用いられるアルゴリズムである判別分析2値化法を用いて、人間の判断に頼らずに2次元NMRスペクトル上でのシグナル判別に最適なスペクトル表示の閾値を確定する技術を確立した。また、確定した閾値以上の強度を持つ信号に対して2次元のガウス関数による信号形状に対するフィットを自動的に行うプログラム完成させた。シグナルの重なりが大きい部分に対しては、発生させた関数と実験値との差を観測誤差に落とし込むまで自動的にパラメーターチューニングすることで完全自動化を可能とした。更に、シグナル重なりの大きな部位に対して統計的に意味のある最低限の数のシグナルを発生させることで、重なった部位に対するNMRシグナルの自動的な分離観測を可能とした。続いて、DIORITE法から得られるペプチド面の磁場に対する配向角度情報を構造制約として計算に導入する目的で、2つの核スピン相互作用に由来するのと等価な物理量を与える仮想的テンソル量(擬化学シフト異方性テンソル量)を考案した。擬化学シフト異方性テンソル量により、分子動力学計算プログラム(X-PLOR)に対する構造制約条件として立体構造計算の実施を可能とした。
(2)異方性圧縮アクリルアミドゲル中での分子回転運動シミュレーション
 アクリルアミドゲル中で制約を受けた分子回転運動を表現するために、最も単純な2つの壁に囲まれた空間中でのタンパク質分子の運動モデル(壁モデル)を用いて、実際の観測値を再現するために最も敏感なパラメーターの抽出に成功した。4つの異なる分子配向状態で観測されたタンパク質(ユビキチン)の分子配向強度を再現するためには、壁モデルで使われる2つの壁の間の距離でおよその表現が可能であることを見出した。アクリルアミド濃度、アクリルアミド・ビスアクリルアミドの混合比に応じて変化するする制約空間の広さを予測可能とした。また、壁モデルで定義される空間のサイズには、アクリルアミド濃度、およびアクリルアミド・ビスアクリルアミド濃度に対しておよその比例関係があることがわかり、最適なゲル組成の予測が実現可能であるとの見通しを得ることができた。
(3)PPARγを対象とした実証実験
 創薬標的タンパク質となるPPARγを対象としてDIORITE解析を実現するための準備を進めた。7つの化合物との複合体のTROSY相関シグナルを観測し、BRL、GW1929、プロスタグランディンJ2、LY-171,883の4つの化合物と複合体の主鎖のシグナル帰属を完了した。また、GW1929についてはDIORITE解析のためのデータ集積・解析を完了し、溶液中では結晶構造とは異なる立体構造を持つことを示すデータを得ることに成功した。
V.評 価
 NMRによるタンパク質−化合物の相互作用解析を従来よりも簡便で、かつ分子量の制約を大きく緩和する自動化技術の確立を目指す要素技術開発である。本開発成果は創薬などにおける化合物スクリーニングを飛躍的に効率化させると期待できる。開発は順調に進捗しており、各開発項目の数値目標をほぼ達成している。独自の技術を積極的に推進しており、ユニークな成果につながると思われる。今後は、当該技術の有用性を実証化するため他の研究開発機関との連携を検討するなど、実用化を念頭においた開発を着実に推進すべきである[A]。


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