資料4

開発課題名「文化財保全環境モニター開発−土壌由来のカビの検出」

(機器開発プログラム:領域特定型「リアルタイム・ハイスループット観察、リアルタイム制御、又はものづくり環境適応可能な計測分析システム」)

開発実施期間 平成19年10月〜平成22年3月

チームリーダー :  鈴木 孝仁【奈良女子大学 理学部 教授】
中核機関 :  奈良女子大学
参画機関 :  (株)ソダ工業
近畿大学
(株)エックスレイプレシジョン
新日本電工(株)
T.開発の概要
 カビによる文化財の劣化や損傷を防止するためには、カビの発生を早期に検出できる先端機器の開発が急務である。カビをはじめとする微生物は、特有の臭い成分を分泌することに注目し、イオンモビリティスペクトロメトリー(IMS)を原理とする先端計測分析機器を開発する。これら臭い成分を文化財の置かれた土壌などの環境でリアルタイムに検出し、文化財保全環境モニターの実用化を目標とする。
U.事後評価における評価項目
(1)IMS技術を利用した環境モニター装置の設計試作
 イオン源としてコロナ放電、RI方式、軟X線源の3種類を検討した。トリチウムをイオン源としたRI方式を採用したプロトタイプ3号機において、強度として十分なIMSスペクトルを測定できた。また、平行平板型のX線管を新たに開発し、本装置の軟X線イオン源としての利用を検討した。
(2)通電可能な吸着剤の開発
 長さ128mmの塗布部分を持ち、直接通電可能な基材としてタングステンを選択し、また測定の阻害にならないポリジメチルシロキサンを吸着素材とし、タングステン表面に保持した。開発した素材は1.2Wの通電で200℃まで加熱可能で、繰り返し使用が可能となった。これをプロトタイプ機に取り付けたところ、従来の100倍の濃縮効果が得られた。
(3)遠隔制御システムの設計試作
 装置を電源のない環境でも動作できるようにし、遠隔操作およびデータ収集を可能とするため、太陽電池を電源とした。また、遠隔操作・データの送信のために携帯電話網を利用したシステムを構築した。
(4)プロトタイプ機によるデータベースの構築
 GC/MSによるカビ特有の揮発成分について、土壌由来の真菌5属、放線菌のGC/MS測定を行い、フィンガープリントデータベースを構築した。また、プロトタイプ機により得られる予定の、IMSに基づくフィンガープリントデータベースのため、フィンガープリントパターン構築のためのデータ(カビ臭モデル混合試料のIMSスペクトルデータ)を取得した。
V.評価
古墳等の湿度が高くカビが発生しやすい環境にある文化財の保全モニタリングを行うための小型かつ遠隔操作可能な質量分析装置が本開発課題の目標であるが、個別の要素技術については達成できているものの、これらを統合した試作機ではイオン化源の検討に時間を要し、目標とする感度、時間分解能を達成するに至らなかった。喫緊の課題である文化財の保全に本装置を応用するためには、当初目標である諸性能を試作機において達成するともに、IMSスペクトルの測定、データベース化を進める必要がある。これらについては、今後の開発チームの努力に期待したい。
本開発は、当初の開発目標を達成したが、本事業の趣旨に相応しい成果は得られなかったと評価する。[B]


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