チームリーダー : |
中西 彊【名古屋大学 大学院理学研究科 名誉教授】 |
中核機関 : |
名古屋大学 |
参画機関 : |
大阪電気通信大学 |
- T.開発の概要
- 強く絞り込んだ円偏光レーザー光をGaAs−GaAsP歪み超格子結晶薄膜に照射し、特定のスピン状態にある価電子のみを伝導帯へ励起する方法により、高偏極度並びに高輝度・大電流をもったスピン偏極電子源を開発する。これを用いて電子顕微鏡によるナノ磁区構造の実時間観察などを可能とする。
- U.事後評価における評価項目
- (1)透過光吸収フォトカソード型偏極電子源の偏極度、輝度が従来の偏極電子源より優れていることの実証
- レーザー光をフォトカソードの背面から入射するためのレンズステージを作成し、レーザー光をフォトカソード直前の収束レンズの垂直位置調整により、超格子薄膜位置で最小スポットとした。この装置で還元輝度は従来の1000倍高い1.0×103Acm−2sr−1V−1を得た。また、GaP基板上に中間層GaAsを挿入してGaAsバッファ層を積み、12ペアのGaAs―GaAsP歪み超格子薄膜をMOCVD法で成長させることで、最大偏極度を90%以上とすることに成功した。
- (2)投影型表面電子顕微鏡(LEEM)に装着する偏極電子源の実用化
- 上記の高輝度/高偏極度電子源をLEEM顕微鏡に搭載し、スピン投影型表面電子顕微鏡(SPLEEM)とし、30μm視野での最初のSPLEEM動画撮影において、0.1秒/画像で鮮明な磁区構造が観測できることを確認した。さらに改良を加え、6μm視野でのCo最表面層の磁区構造変化のリアルタイム観察(50コマ/秒)に成功した。
- (3)成果の実用化、製品化に向けた開発
- 本装置の実用化に当たり、装置作成の手法に関する2件の特許を出願した。この2件の特許を合わせて国際特許出願を行った。これらの特許は透過光吸収フォトカソード型スピン偏極電子源について、世界に先駆けて出願されたもので、現時点では競合して製品化に乗り出すグループは存在していない。また、製品化に向け、複数の企業と交渉を行い、うち1社についてノウハウの継承を行う共同研究を実施する予定である。
- V.評価
- 90%以上の高偏極度並びに高輝度・大電流をもつスピン偏極電子源の開発に成功した。この電子源は従来のLaB6エミッターより10倍以上強い電流値を得るなど、予想を上回る成果を得た。また、開発した電子源を投影型表面電子顕微鏡(LEEM)に装着し、従来の100倍以上(50コマ/秒)でCo表面のリアルタイム磁区構造観察を達成するなど、磁区構造変化の動的観察においてブレークスルー的技術進歩を示した。
- 要素技術開発は順調に達成され、この手法の中心となる技術について国内で2件の特許を出願し、これをまとめて国際特許出願も実施している。製品化に向け、機器メーカーとの交渉を行い、技術移転のための共同研究が開始されたことから、早期の実用化が期待できる。
- 本開発は当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。
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