資料4

開発課題名「低価格脳機能異常部位表示装置の開発」

開発実施期間 平成20年10月〜平成22年3月

チームリーダー :  小杉 幸夫【東京工業大学 大学院総合理工学研究科 教授】
中核機関 :  東京工業大学
参画機関 :  (株)脳機能研究所
T.開発の概要
 頭皮上電位解析から局所的な神経細胞の機能異常を計測する技術を用いて、脳疾患による神経細胞異常を特定し脳表面に表示する機器の開発を行う。この機器は無侵襲(放射線被曝なし)、高感度、簡単な操作で、現行脳画像装置では表示し得ない神経細胞機能異常の識別をネット解析により、画期的な低価格で実現することを目標とする。また小規模医療機関での高度な診断機器の利用を可能にし、高齢化社会の要請に応えることを実現する。
U.事後評価における評価項目
(1)高精度な脳疾患の特徴分類法の確立
 Zスコア導出技術を完成し、被験者のZスコアを3D脳表面上にマップ化して画像表示するソフトウェアを開発した。本技術をアルツハイマー病患者例で測定されたデータに応用した結果、現在高価な診断費用を要するSPECTの診断結果に匹敵する表示性能を実現できることを実証した。また、アルツハイマー型認知症と類似臨床所見を呈する初期鬱病との鑑別を行うのに際し、典型的なアルツハイマー型認知症と初期鬱病のプロトタイプをそれぞれ作成し、これらとのZマップ上での類似度によって、両者を高い精度(感度90%以上)で判別することができた。さらに、血管性認知障害患者への臨床応用について検討した結果、本技術の有効性が確認された。
(2)多電極ヘルメットの開発
 21-64電極ヘルメットを開発し、多電極NAT(Neuronal Activity Topography)画像の比較を行った結果、64電極による測定では、電極と頭皮との接触電気抵抗の調整に1時間以上要することから、集中処理系(ネット解析型)には21又は32電極を使用し、64電極は、分散処理系(独立解析型)に適用することとした。64極試作品は、高齢被験者には負担(900グラムの重さと測定時間約1時間)となる可能性があり、更なる改良の余地がある。16電極を基本モジュールとした増幅装置も試作した。ネット解析型には、2モジュールを並列に使用し、独立解析型には、最大4モジュールの使用を可能とした。アンプによる測定は、32電極には目標通りの2 kHz(0.5 ms)、64電極には1 kHz(1 ms)を可能とした。
(3)新技術による臨床データの収集と評価
 481名の高齢健常者の脳電位データを収録した。これらのデータから真の健常者とアルツハイマー病の初期状態であるMCI(Mild Cognitive Impairment)患者とを区別するためのデータベースの構築が可能となった。
V.評価
神経細胞の電気的活動のトポグラフィーを安価で手軽な装置で記録し、そのデータ解析により、アルツハイマー病、鬱病のスクリーニングに利用しようとする当初の開発目標を達成した。小型安価な装置でこれらの疾病の鑑別が出来たことは、今後の日本で重要な役割を果たすことが期待できる。また、直感的に分かりやすいコンピュータグラフィックスの開発にも成功した。今後は、第一線の研究に用いられている先行装置との競合を念頭に置き、診断精度の向上と同時にコストや患者への負担とのバランスを考慮して、更に開発を発展させるべきである。これらの成果を国際誌に投稿するなどの啓蒙活動を通しての成果の普及が期待される。
本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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